健保ニュース
健保ニュース 2022年1月中旬号
「あしたの健保組合考える大会」で講演
佐野副会長 後期高齢者の2割負担対象拡大を
健保連の佐野雅宏副会長は12月8日、大阪市内で開催された「あしたの健保組合を考える大会PART6」(主催・健保連大阪連合会)で、健保組合・健保連の新たな提言「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」をテーマに講演し、後期高齢者の医療費窓口2割負担の導入について一定の成果ではあるものの、現役世代の負担軽減策としては不十分であり、2割負担の対象範囲を拡大するよう主張していく考えを強調した。さらに、後期高齢者の現役並み所得者の給付費への公費投入や、後期高齢者と現役世代との間で生じている保険料負担額の不均衡についても是正するよう求めていくと述べた。
今回の提言は、平成29年に健保組合・健保連がまとめた「2025年度に向けた医療・医療保険制度改革について」の提言に続くもので、その後の社会情勢の変化やコロナ禍を踏まえた内容となっている。
佐野副会長は、団塊の世代全員が75歳以上となる「2025年」が迫り、医療保険財政がひっ迫の危機にあるなか、誰もが必要な時に必要な医療にアクセスできる体制を支える国民皆保険制度を維持するため、地域医療構想の実現をはじめ、質の高い医療提供体制を構築し、社会情勢の変化に対応した全世代で支え合う制度への転換が急務であると指摘した。
そのうえで、今回の提言は、①コロナ禍を通じて明らかになった課題と対応②社会情勢の変化に応じた課題と対応③健保組合の価値向上へ取り組む課題と対応─の3本柱で構成されていると説明。
①は、コロナ禍を通じて入院・外来ともに医療提供体制の硬直性、脆弱性、医療資源の散在等の問題が顕在化し医療に対する国民の不安が高まるなか、安全・安心で必要な時に必要な医療にアクセスできる体制を堅持することが最重要であり、そのためには国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」の推進とかかりつけ医の要件(機能)の明確化など、かかりつけ医制度の構築が必要と述べた。
②は、国民皆保険制度の持続性確保のためには医療費の増嵩を抑制する(医療の重点化・効率化)とともに全世代で支え合う制度への転換が必要であり、特に高齢者医療費の負担構造の見直しと世代間の給付と負担のアンバランス解消は「絶対的な急務」と解説した。それを踏まえた対応の方向性として、保険給付範囲の見直しを重視し、医療費適正化計画の取り組みの強化の必要性を示した。
さらに、昨年の通常国会で成立した後期高齢者の医療費窓口2割負担導入は、一定の成果ではあるものの、現役世代の負担軽減策としては不十分であることから、2割負担の対象範囲の拡大を引き続き主張していくと表明した。加えて現役並み所得者の給付費への公費投入の必要性を引き続き訴えるとし、後期高齢者医療制度における保険料負担割合(後期高齢者負担率)についても、後期高齢者と現役世代間で生じている負担額の伸び率の不均衡を是正すべきとした。
また、社会保険の原理が適正に機能する仕組みとして、▽高齢者医療への拠出金負担の上限設定▽拠出金負担の見える化▽社会保障のための財源確保等の検討(税財源の確保、年金控除、非課税年金の見直し)─を指摘した。
このほか、▽金融資産も勘案した高齢者の自己負担割合の検討▽介護保険制度の給付と負担の見直し▽前期高齢者と介護保険制度の年齢区分の65歳から70歳への引き上げの検討─についても提起した。
③は、健保組合は企業と協働して特定健診・保健指導をはじめとする各種保健事業を展開し、加入者の健康保持増進に寄与してきたと健保組合の価値をアピール。今後、さらなるデータヘルスの推進や変化する社会情勢に合わせた保健事業を展開し、健康寿命の延伸を図ると意欲を示し、そのためには国や関係機関に対し国民が自発的に予防・健康づくりに取り組む機運醸成が必要と訴えた。
佐野副会長の講演後、出席した健保組合関係者と質疑応答を行った。このなかで出席者からは、「高齢者医療制度への過重な拠出金負担に加え、コロナ禍の影響により保険料収入が減少する一方、医療費はコロナ前より増加傾向にあり、経常収支の赤字幅はさらに拡大する」と健保組合の窮状が訴えられ、「この状況を打開するには、今回の提言を早急に実現する必要がある」との意見があがった。
そのうえで、提言のうち①保険給付範囲の見直し②拠出金負担の上限設定─に関し、健保連本部として今後の具体的な取り組みを質すとともに、オピニオンリーダーの活用など広報活動を強化し、健保組合の主張を強く国の施策に反映するよう要望があった。
これに対し佐野副会長は、①について、「医療費全体が増大するなか、従来のように新規医薬品や医療技術を保険収載し続けていては、高齢者の医療費を支える現役世代の負担が増え続けることになる。この悪循環を断ち切る切り口として、保険給付範囲の見直しが必須」と指摘。公的保険のあり方を「対象者が限定される高額医薬品など、個人では負担しきれない大きなリスクに対して機能するもの」とし、「湿布薬やうがい薬といった小さなリスクについては給付範囲からの除外や給付率の見直しを行い、自助への切り替えを引き続き訴える」と述べた。
②について、義務的経費に占める高齢者医療拠出金の割合が健保組合全体で5割に迫ろうとする現状に危機感を露わにし、「現役世代の負担を抑えるためにも主張し続けなければならない」との姿勢を強調した。財政難の健保組合と拠出金負担割合の高い健保組合が必ずしもリンクしていない実情を指摘したうえで、拠出金負担の上限を設けつつ、負担調整の仕組みの拡充など、拠出金負担の重い健保組合に対する財政支援制度の構築を検討する方針を示した。さらに、ロビー活動やマスコミの活用などの広報活動を通じ、われわれの要求を主張していきたいと答えた。
久保大阪連合会会長
要求実現に向け活動を強化
健保連大阪連合会(久保俊裕会長)が8日に開いた「あしたの健保組合を考える大会PART6」では、健保連から宮永俊一会長、佐野雅宏副会長が出席。大会は、オンライン配信を組み合わせたハイブリッド形式で開催。大阪府内および近畿地区の健保組合関係者154名が参加した。
久保会長は、冒頭のあいさつで、新型コロナウイルス感染拡大により、日本だけでなく世界経済にも大きな打撃を与えているとともに、健保組合の事業運営にも影響を及ぼしていると指摘した。ワクチン接種が進み、新規感染者が減少し、緊急事態宣言が解除されるなど、わずかながら先行きに明るい兆しが見えてきたものの、変異株の感染者が発生したため、今まで行ってきた適切な予防策を継続するとともに、正しい情報を見極めることが重要との考えを示した。
さらに、久保会長は、健保連が発表した健保組合・健保連の新たな提言に言及し、国民皆保険制度の維持に向けて、▽国の施策のあり方▽現役世代の負担軽減▽安心・納得できる医療保険制度の構築─について、健保組合の意思結集を図り、健保連本部と連携して今後の要求実現に向けた活動の強化を呼びかけた。
来賓としてあいさつした健保連の宮永会長は、目前に迫る「2022年危機」について触れ、「コロナ禍の影響による受診控えの影響で医療費が減り、2022年の拠出金負担はいったん下がる見込みだが、これは危機が後ろにずれ2023年の戻り幅がより大きくなるだけで、2025年にかけて拠出金が増大するという構造的な問題が解決したわけではない」と述べ、今後の健保組合財政に危機感を示した。
そのうえで、「今が国民皆保険制度を維持できるか否かの『分水嶺』であり、この難局を乗り越えるためには、国民全員が一丸となって国民皆保険制度を守り抜く覚悟が必要だ」との考えを示すとともに、国民皆保険制度を支える健保組合には改革の牽引者となるよう求め、健保連も今回の提言を積極的に発信し要求実現を訴えていくと決意を表明した。
また、健保組合が事業主との連携のもと、長年にわたる保健事業を通じて健康寿命の延伸に寄与してきた実績を強調し、今後も保険者機能を一層発揮して多様化する社会に対応した予防・健康づくりを推進し、健保組合のさらなる価値向上を果たしていくことに期待した。
新たな提言をテーマに講演する佐野副会長