健保ニュース
健保ニュース 2021年5月合併号
後期高齢者2割負担導入など柱
健保法等改正案が衆院通過
厚労委で菅首相 高齢者も能力に応じて負担
一定所得以上の後期高齢者の医療費自己負担を現行の1割負担から2割負担に引き上げるなどを柱とする健保法等改正案(全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案)が11日の衆院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で原案どおり可決され、参院に送付された。日本維新の会と国民民主党も賛成した。改正案をめぐる審議では後期高齢者の自己負担見直しが最大の論点となった。改正案は、現役世代の高齢者医療に対する支援金の負担増を抑制する観点から、現行1割負担の後期高齢者のうち単身で課税所得28万円以上・年収200万円以上(複数世帯は後期高齢者の年収合計320万円以上)の人を2割負担とする。菅義偉首相は、法案の採決に先立つ4月23日の厚生労働委員会に出席し、2割負担の導入について、「高齢者も支える側として能力に応じ負担してもらうことは待ったなし」と答弁し、次の世代に皆保険を引き継ぐために必要な改革であるとの考えを示した。
参院・附帯決議の扱い注視
一方、立憲民主党は、現役世代の負担を軽減する必要性は政府・与党と共有するが、そのための財源を高所得層の後期高齢者の保険料引き上げなどで賄う対案を提出しており、政府提出の同改正案に反対した。共産党も反対した。
衆院の審議は、同改正案の①後期高齢者の2割負担導入(令和4年度後半)②傷病手当金の支給期間の通算化(令和4年1月)③任意継続被保険者制度の見直し(同)④育児休業中の社会保険料免除要件の見直し(令和4年10月)⑤効果的な予防・健康づくりに向けた保健事業における診療情報等の活用促進(令和4年1月)─などの柱のうち、①2割負担の導入に集中した。
立憲民主党は政府案の自己負担増に伴う受診抑制、重症化リスクの可能性を追及。衆院厚労委は最終的に与野党間の合意が得られないなか、審議を打ち切った格好となった。野党側にとっては〝消化不良〟の感が残され、続く参院の審議でも大きな争点となることが予想される。
衆院で見送られた法案に付す附帯決議の扱いも注目されるが、採決時期を探る協議が円満に進むかどうかが焦点になる。
なお、衆院における健保法等改正案の審議は、4月8日の本会議で審議入りした後、厚労委は14日、16日、21日、23日、5月7日と5回の審議を重ね、7日に採決した。4月20日には健保連の佐野雅宏副会長らを招いた参考人質疑を行っている。厚労委での審議時間は27時間を数え、参考人質疑を加えると29時間30分となる。
序盤の審議は順調に進んだが、採決が予測された4月23日の委員会では、当時、与党筆頭理事の菅原一秀氏(自民党)が急きょ理事を辞任するなど、終盤に入って混迷の度合いが深まってきた。
5月7日の厚労委は、同改正案に対する3時間の審議を終えた後、審議終局の緊急動議の採択を経て法案採決に臨み、立憲民主党と共産党議員が採決に抗議するなか、自民、公明、日本維新の会、国民民主の与野党の賛成多数で政府原案どおり可決した。
委員会採決にあたっては、当日朝の理事会で与党筆頭理事の橋本岳氏(自民党)が「議論は出尽くした」として改めて採決を提案したが、野党筆頭理事の長妻昭氏(立憲民主党)は、2割負担導入による後期高齢者の受診抑制や健康への影響に対する明確な回答が得られていないとして審議続行を求め、両者の主張は平行線が続いた。
こうした状況のなか、採決に至ったことから、残された政策課題への検討や適切な改正法の施行などを政府に要請する附帯決議の協議も進まず、採択は見送られた。立憲民主党の対案は採決の対象とせず、いわゆる棚ざらしの扱いとされた。
この日の衆院厚労委では、与野党7氏が質疑に立ち、長妻氏らは新型コロナウイルス感染拡大の状況下で高齢者の負担増を議論すべきではないと批判。患者負担増による受診抑制や重症化を分析した過去の調査レポートなども引き合いに、保険料賦課限度額の引き上げによって現役世代の負担抑制を図るべきだと主張した。
田村憲久厚労相は、後期高齢者の保険料賦課限度額については、これまで段階的に引き上げてきた経緯があり、今後も政策課題になるとしたが、現行の64万円から急増させる見直しには否定的な見解を示した。自己負担増に伴う健康への影響調査の実施は、因果関係の把握を困難として、「特定の調査を実施することで健康への影響がわかるものではない。現在、信頼に足る調査手法がない」と懐疑的な見方を示した。
2割負担導入は4年度後半に施行される予定で、約370万人の後期高齢者が対象になると見込まれている。これに伴い、後期高齢者支援金は4年度(満年度ベース)で総額720億円の減少を見込む。このうち、健保組合の支援金分保険料は240億円軽減されるが、傷病手当金の支給期間の通算化で30億円の給付増となり、制度改正による財政影響はトータルで210億円減と見込まれている。