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健保ニュース 2021年1月下旬号

後期2割負担導入など健保法等改正案
全世代対応型の社会保障を構築
傷手、任継見直しは4年1月施行

厚生労働省は20日の自民党・厚生労働部会(福岡資麿部会長)に、今国会への提出を予定する同省所管の法案について、一定所得以上の後期高齢者の医療費自己負担を1割から2割に引き上げるなどの医療保険制度改革関連法案「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」の概要を提示した。後期高齢者の2割負担は令和4年度後半に導入し、施行日は改正法の成立後に政令で定める。傷病手当金の支給期間の通算化や任意継続被保険者制度における保険料の算定基礎の見直しなどは、4年1月1日から施行する予定。自民党・厚労部会は21日、健保法等改正案を了承した。政府は、今後、与党の法案審査で了承を得た後に改正法案を閣議決定し、2月上旬に国会に提出する予定となっている。

今回の健保法等改正案の趣旨は、政府が昨年末に閣議決定した「全世代型社会保障改革の方針について」などを踏まえ、現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、すべての世代で広く安心を支えていく「全世代対応型の社会保障制度」の構築を目的とする。

改正の柱として、①すべての世代の安心を構築するための給付と負担の見直し②子ども・子育て支援の拡充③生涯現役で活躍できる社会づくりの推進(予防・健康づくりの強化)─などを掲げた。

このうち、①給付と負担の見直しでは、後期高齢者の自己負担2割への引き上げ、傷病手当金の支給期間の通算化や任意継続被保険者制度の見直しを実施する。

後期高齢者の自己負担については、3割負担が適用される現役並み所得者を除いて、現在1割負担だが、このうち、所得上位30%(現役並みを除き23%)までをカバーすると見込まれる課税所得28万円以上かつ年収200万円以上(複数世帯は後期高齢者の年収合計320万円以上)の人を2割負担とする。一定所得以上の2割への引き上げを高齢者医療確保法に規定し、対象者の所得基準は政令で定める。

2割負担導入の時期は、令和4年度後半(4年10月1日~5年3月1日)の間を予定し、施行日を政令で定める。また、施行後3年間、外来受診の自己負担増を最大で月3000円に抑えるための配慮措置も政令で規定する。

傷病手当金の支給期間は、現在、健保組合など健康保険と共済組合で異なり、健康保険は支給開始日から起算し復職して不支給となる日も含めて最大1年6か月だが、共済組合は実際に支給された日を通算して1年6か月とする。

これに対し、傷病手当金の支給期間の見直しは、治療と仕事の両立の観点から柔軟な所得補償が可能となるよう、共済組合の仕組みに合わせて健康保険も通算して1年6か月に改める(健康保険法、船員保険法)。施行日は4年1月1日を予定する。通算化の適用を受けて新たに支給される対象者は4万人、財政影響は4年度で70億円の給付費増(保険料60億円、協会けんぽの公費6億円)を見込む。

任意継続被保険者制度の見直しは、保険料算定の基礎について、健保組合の規約により退職前の標準報酬月額とすることを可能とするほか、最大2年の被保険者期間を維持するなかで、被保険者からの申請による資格喪失を認めることとする。このため健保法、船員保険法を改正する。

現在、任継被保険者の保険料算定方法は、退職前の標準報酬月額か全被保険者の平均標準報酬月額のうちの低い額を適用するが、保険料収入増が図られるよう、見直し後は従前の標準報酬月額の選択を可能とする。

任継制度見直しの施行日も4年1月1日を予定する。4年度の財政影響は、仮に全健保組合が保険料算定の基礎を従前の標準報酬月額とするなど一定の仮定を置くと、保険料収入が約100億円増加すると見込む。

②の子ども・子育て支援の拡充に関する改正事項は、▽育児休業中の保険料免除要件の見直し(健保法、船員保険法、厚生年金保険法等)▽子どもにかかる国民健康保険料の均等割額の減額措置の導入(国保法等)─の2点。

育児休業中の健康保険料など社会保険料の支払い免除については、月内に通算して2週間以上の育休を取得した場合にも当月内の保険料を免除する一方、賞与保険料は1か月超の育休取得者に限り免除対象として要件を厳格化する。施行日は4年10月1日。財政影響は、男性の育休取得率が政府目標の3割に達するなどした場合、保険料収入が約1億円減少する(4年度満年度ベース)。

国保制度の見直しは、子育て世帯の経済的負担を軽減する観点から、全世帯の未就学児にかかる均等割分の保険料負担を5割軽減する。4年4月1日から施行し、このために約90億円の公費を充てる予定。

③生涯現役で活躍できる社会づくりの推進(予防・健康づくりの強化)では、労働安全衛生法にもとづく健診情報を保険者が保健事業に活用できるよう、事業者に対し被保険者等の健診情報を求めることを可能とするとともに、健保組合などが保存する特定健診等情報を後期高齢者医療広域連合へ引き継げるようにする。施行日は4年1月1日。健保法、船員保険法、国保法、高齢者医療確保法などを改正する。

これらの改正事項を含む健保法等改正案は、4年1月1日施行の傷病手当金の支給期間通算化に伴う協会けんぽへの追加の国庫補助や、事業主健診の保険者への提供など健診情報等の活用促進に要するシステム改修の経費が予定されており、予算関連法案の扱いとする。

このほか、医療機関の機能分化・連携に関連して、全世代型社会保障改革の方針で示された大病院における受診時定額負担の拡大は、法改正を伴わずに実施する。

紹介状のない患者からの定額負担の徴収義務化は、現在、特定機能病院と一般病床200床以上の地域医療支援病院で実施されているが、対象病院を広げて、紹介外来を基本とする医療機関のうち一般病床200床以上の病院も加える。

これら対象病院が徴収しなければならない定額負担も増額する。対象病院は、初・再診の際に一定額(初診で2000円程度)を保険給付範囲から控除され、同額以上を現行の定額負担(初診5000円、再診2500円)に上乗せする。選定療養の枠組みを活用して実施する方針で、中央社会保険医療協議会で具体的な仕組みを検討する。

厚労省の提出予定法案は、健保法等改正案など4件。このほか難病・児童福祉改正法案の1件は検討中となっている。(厚労省所管の提出予定法案は次のとおり。検討中の法案除く)

▽良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案(仮称)…医師の長時間労働の状況に鑑み、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するため、医療機関が講ずべき医師の労働時間の短縮や健康確保のための措置の義務づけ、各医療関係職種の業務範囲の見直し等を講じるとともに、外来医療の機能の明確化および連携の推進のための報告制度の創設、地域医療構想の実現に向けた医療機関の再編に関する支援の仕組みの強化などを講じる。(予算関連。2月上旬に国会提出予定)



▽全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案…全世代対応型の社会保障制度を構築するため、健康保険等における傷病手当金の支給期間の通算化、育児休業中の保険料の免除要件の見直し、保健事業における健診情報の活用促進、後期高齢者医療における一部負担金の負担割合の見直し、未就学児にかかる国民健康保険料等の被保険者均等割額の減額措置の導入等を講じる。(予算関連。2月上旬に国会提出予定)



▽特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法の一部を改正する法律案…特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給の請求の状況等を勘案し、当該給付金等の請求期限を延長するなどの措置を講じる。(予算関連。2月上旬に国会提出予定)



▽育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案…出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業の分割取得の制度の創設などの措置を講じる。(2月下旬に国会提出予定)

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