健保ニュース
健保ニュース 2020年12月中旬号
医保部会が出産育児一時金を議論
佐野副会長 費用の実態把握が優先
年内に対応方針を決定
厚生労働省は、2日に開催された医療保険部会に、出産費用の明確化と透明性の確保に向けた対応を提案した。
請求様式の見直し後に収集した新たなデータにもとづき出産育児一時金の水準を検討する提案に対し、委員からは、現行水準の維持・引き下げ・引き上げの3通りの意見があり、厚労省は、年内に議論を整理し、対応方針を決定する意向を示した。
出産育児一時金は、健保組合などの加入者が出産した時に一定額を支給する健康保険上の仕組みで、医療機関における出産費用の高騰に連動し、平成18年10月に30万円から35万円、産科医療補償制度が創設された21年1月に原則38万円へと増額されてきた。
21年10月に原則42万円に引き上げられて以降、現行の水準に据え置かれ、基礎額(40万4千円)と産科医療補償制度の掛金分(1万6千円)から構成されている。
この日の会合では、厚生労働省から、令和元年度の室料差額、産科医療補償制度掛金、その他の経費を除く、正常分娩にかかる公的病院の出産費用(全国平均)が「44万3776円」で、平成24年度(40万6012円)から「3万7764円」増加している状況が明示された。
また、全国平均の「44万3776円」に対し、最高の東京(53万6884円)と最低の鳥取(34万1385円)では、「19万5499円」の差が生じるなど、地域差も見られた。
一方、日本医療機能評価機構による産科医療補償制度の見直しにより、令和4年1月から、掛金を1万2000円へと4000円引き下げる方針が報告された。
厚労省は、出産費用の現状と課題について、▽出産費用の増加、地域差の要因が明らかでない▽正常分娩は自由診療で行われているため、価格設定の方法も様々である▽直接支払いの請求様式から価格設定を把握できない─などと整理。
出産費用の実態を明らかにし、透明性を確保するため、費用を詳細に把握するための請求様式の見直しなどで新たに収集したデータにもとづき、掛金の引き下げ分も含む出産育児一時金の設定について検討を行う対応を提案した。
健保連の佐野雅宏副会長は、被保険者の保険料が出産育児一時金の支給財源となっているなか、「出産費用の増加要因が不透明ということでは納得は得られない」と指摘し、まずは出産費用の実態把握を実施すべきとの考えを示した。
さらに、令和4年1月からの産科医療補償制度の見直しに伴う掛金の引き下げ分は、「出産育児一時金の支給額とは別物」との観点から、「当然、被保険者の負担軽減に反映すべき」と強調した。
藤原弘之委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も同様の趣旨の主張を訴えた。
一方、菊池馨実委員(早稲田大学法学学術院教授)は、出産育児一時金から掛金減額分を引き下げた場合、全世代型社会保障への転換と子ども・子育て支援を重視する現下の流れに逆行するメッセージを国民に発することとなると指摘。
平成27年1月の改定に倣って、掛金減額分は出産育児一時金の増額に充てるべきと主張し、松原謙二委員(日本医師会副会長)も掛金減額分の出産育児一時金への充当を求めた。
秋山智弥委員(日本看護協会副会長)は、掛金は4000円引き下げとなるが、出産費用が年々増加傾向にあることを踏まえ、少なくとも44万円以上の水準に出産育児一時金を引き上げるべきと要請。
森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、これまでも平均的な出産費用の状況を踏まえ対応してきたことを考えると、今回示されたデータにもとづき出産育児一時金の水準について検討する必要があるとの考えを示した。
産科補償制度の見直し
保険者負担の掛金引下げ
また、厚生労働省は2日の医療保険部会に、令和4年1月以降の分娩から適用する産科医療補償制度の見直しについて報告した。
見直し内容は、「出生体重が1400グラム以上かつ在胎週数が32週以上」または「在胎週数が28週以上で低酸素状況の発生」などとしていた補償対象基準について、「在胎週数が28週以上」に緩和。低酸素状況を要件とするため補償対象外となることが多かった「個別審査」を廃止し、一般審査に統合する。
補償対象者数は年間455人を見込み、保険料水準は2万2000円を設定した。剰余金の残高と制度の長期的な安定運営の観点から、保険料に1万円を充当し、保険者が負担する掛金は「1万2000円」と設定した。
健保連の佐野雅宏副会長は、「今回の制度見直しに異存はない」と述べる一方、約25億円にのぼる本制度の運営事務経費は、補償対象基準の拡大でさらなる増加が見込まれると指摘し、掛金を拠出している保険者の立場から、最大限の効率化努力を要望した。
また、事務経費の多くを占めている産科医療の質向上のための原因分析や再発防止の取り組みは、「本来国が率先して取り組むべき事業である」と主張し、事務経費に対する国の補助金(約1億円)を増額するよう求めた。