健保ニュース
健保ニュース 2020年11月下旬号
中医協が毎年薬価改定の検討に着手
議論の進め方で見解相違
支払側 対象品目の特定などを論点
中央社会保険医療協議会(小塩隆士会長)の薬価専門部会は18日、令和3年度の毎年薬価改定に向けた検討に着手した。
支払側は平時のあるべき姿を見据え、対象品目の特定を最大の論点に、実勢価改定に連動する算定ルールや調整幅のあり方などの議論を進めるよう主張。反面、診療側は新型コロナウイルス感染症が2年度薬価調査の結果に与えた影響の検証が先決と強調し、議論の進め方の段階で両側の意見は平行線を辿った。
中医協では、2年度薬価調査の結果が公表される12月初旬までは、毎年薬価改定における具体的な内容の検討は進展しない状態が見込まれる。
さらに、毎年薬価改定は、年末の3年度政府予算編成過程で対応する課題に位置づけられており、中医協で議論するための時間的な制約は否めない。
診療側は、2年度薬価調査の結果が個々の医薬品の価値を適切に評価した内容かどうか、関係業界からのヒアリングなども行ったうえで慎重に判断する必要があるとの考えを示しており、次回の会合では関係業界から意見聴取を実施する。
3年度の毎年薬価改定は、平成28年12月20日の4大臣合意で決定した「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」で、「価格乖離の大きな品目について薬価改定を行う」とされた。
その後、29年12月20日の中医協で決定した「薬価制度の抜本改革について 骨子」では、「対象品目の範囲は、国民負担軽減の観点から、できる限り広くすることが適当」とされ、「医薬品卸・医療機関・薬局などの経営への影響などを把握し、総合的に勘案して具体的な範囲を設定する」とされている。
毎年薬価改定の検討にあたっては、薬価改定時の既収載品目における算定ルールの適用のあり方も論点となる。
令和元年10月の消費増税に伴う臨時改定時には、▽新薬創出等加算の加算▽基礎的医薬品の薬価維持─などを実勢価改定と連動する算定ルールとして適用する一方、国民負担の抑制に資する、▽新薬創出等加算の累積額控除▽長期収載品の薬価改定─などは算定ルールとして適用しなかった。
革新的な新薬の創出を加速させるための「新薬創出等加算」は、実勢価改定に伴う引き下げを一定程度猶予するために改定時に加算する一方、後発品の上市や収載から15年後にそれまでの加算累積額を改定時に控除する一体的な仕組みだが、累積額の控除のみ実勢価改定と連動しないルールとした。
他方で、政府が2年7月17日に閣議決定した「骨太方針2020」では、「3年度薬価改定は、新型コロナウイルス感染症による影響も勘案し、十分に検討し決定する」こととされており、新型コロナに伴う医療機関等の経営悪化や、それに対する政府予算・診療報酬による支援の状況なども注視される。
このほか、厚労省からは、市場実勢価格の推移、薬価差の状況について、平成28年4月の改定から1年半後の29年9月取引分は「9.1%」、30年4月の改定から半年後の30年9月取引分は「7.2%」の推定乖離率であることが示された。
これらの経緯を踏まえ、厚労省は、「国民皆保険の持続性」と「イノベーション推進」を両立し、国民が恩恵を受ける「国民負担の軽減」と「医療の質向上」を実現する観点から、3年度薬価改定についてどう考えるかを論点として提示した。
新薬加算の累積控除
実勢価改定と連動
幸野理事が再要望
論点に対し、健保連の幸野庄司理事は、「毎年薬価改定の実施の可否は政府が総合的な状況を踏まえ判断すること」と述べ、中医協では実施を想定し、コロナ禍を前提とすることなく、毎年薬価改定としてのあるべき姿・ルールの議論を進めていく必要があると指摘。
そのうえで、価格乖離の大きな品目の特定や政策的な改定のあり方、調整幅のあり方の3点が論点になると主張した。
新薬、長期収載品、後発品ごとに偏りが出ないよう、「乖離率」、「乖離額」、「乖離率と乖離額の組み合わせ」に着目して対象品目を特定することが最大の論点になると訴えた。
新薬創出等加算の累積額控除などのいわゆる政策的な改定については、「実勢価改定と連動して適用するべき」との考えを示し、累積控除額を適用することは、実勢価を適時に薬価へ反映するとした「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」の趣旨に沿う対応で、合理性・妥当性はあると強調。消費増税に伴う臨時改定の議論の時から拘ってきた主張を改めて要望した。
市場実勢価格の過重平均値に一定率を上乗せする調整幅については、2年に1度の通常改定も視野に入れた長期的な課題と位置づけたうえで、「2%」の水準に設定した約20年前とは流通状況や在庫管理のあり方が様変わりしていると問題提起。品目ごとの実勢価の分布を検証し、調整幅のあり方の議論を進めていくべきと言及した。
一方、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「医療現場が新型コロナウイルス感染症の影響を受けている状況下で、平時における毎年薬価改定の議論を進めるのは現実的に困難である」との認識を示し、「対象範囲や算定ルールの適用などは、薬価調査の結果を見極めたうえで議論すべき内容」と主張した。
診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)も、限られた時間のなかで、新型コロナウイルス感染症が2年度薬価調査の結果にどの程度の影響を与えたのかを検証・分析することが優先との見解を示した。
支払側の眞田亨委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)は、次回の関係業界からの意見聴取では、前回実施した6月の時点あるいは平時と比べて取引状況がどう変化したのかなど、具体的な取引の実態が理解できるような説明を行っていただきたいと要請した。