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健保ニュース 2020年9月下旬号

協会けんぽ5年収支見通し
コロナの影響で収支悪化が加速
10%維持も3年後に赤字

全国健康保険協会(安藤伸樹理事長)は15日、協会けんぽの新しい5年間(令和3~7年度)の収支見通しを運営委員会に提出した。今年の新型コロナウイルス感染拡大の影響を織り込んで全国平均の保険料率を現行の10%に据え置くと、基本シナリオの中位推計(コロナケースⅡ)では、3年後の5年度に単年度赤字に転落すると見込んだ。

収支見通しは、新型コロナの影響を反映しない通常ケースと、反映したコロナケースの2パターンを示し、新型コロナの影響については、リーマンショック時の協会けんぽの実績にもとづき推計した。

例えば、試算の前提に置いた賃金上昇率は、中位推計で通常ケースでは過去8年の協会平均から0.6%の伸びが続くと想定するが、コロナケースは2年度▲1.8%、3年度▲1.4%、4年度▲0.3%、5年度以降0.0%と低下する。こうした前提で平均保険料率10%を維持した場合、通常ケースでは黒字が7年度まで5年間続くが、コロナケースは4年度までで、5年度以降は赤字状態となる。

コロナケースにおける1人当たり医療給費の見通しは、2年度が▲3.3%~▲5.3%と落ち込むが、その後は持ち直し、3年度2.9%増、4年度以降2.0%増と3年度以降は通常ケースと同様の伸びを設定した。

協会事務局はコロナケースについて、今後の見通しが不確実である前提で試算したものであり、医療費の動向などによって大きく変わり得ると指摘している。

平均保険料率10%を維持しても、コロナケースは単年度収支差の悪化が加速し、2年度で5600億円の黒字が3年度は300億円に大きく縮小し、5年度に▲1400億円と赤字に転落し、6年度▲2800億円、7年度▲4600億円と拡大する。

通常ケースだと7年度は200億円の黒字だが、これにコロナの影響を加味すると単年度収支が4800億円悪化することになる。

コロナケースの準備金残高は、4年度の4兆200億円から赤字に転落する5年度以降、取り崩しを進めて8年後の10年度までは平均保険料率10%を維持できるが、11年度に法定水準である1か月分を割り込む。

仮に平均保険料率を9.8%に引き下げると、来年度から準備金の取り崩しが始まり、8年度までは料率を維持できるが、9年度に法定水準を下回る。

賃金水準が基本シナリオのケースⅡよりも上向く上位推計(コロナケースⅠ)は、平均保険料率が10%だと6年度まで黒字を確保するが、7年度に500億円の赤字に陥る。

賃金の伸びがより厳しめの下位推計(コロナケースⅢ)は、来年度から▲900億円の赤字となり、7年度には▲6200億円と赤字幅が拡大する。赤字となってから準備金を取り崩しながら8年度までは10%の料率を維持できるが、9年度から法定水準を満たせなくなる。

3年度保険料率の検討着手
業績悪化で賃金低下 コロナの影響を懸念
運営委員会

全国健康保険協会運営委員会(委員長・田中滋埼玉県立大学理事長)はこの日、協会けんぽの5年収支見通しを受けて、3年度平均保険料率の設定の議論に入った。新型コロナウイルス感染拡大による経済の悪化で事業主と従業員の保険料負担が増すことに懸念を示す意見が目立った。

関戸昌邦委員(全国商工会連合会副会長)は、新型コロナによる企業の業績悪化と賃金低下への影響は今年1年で収束しないとの認識を示し、厳しい状況が当面続くと見通した。新型コロナの影響で協会けんぽの財政悪化が加速する収支見通しが示されたが、仮に保険料率を引き上げると、従業員の収入減と解雇が進み、皆保険の基盤が崩壊すると危惧した。

また、企業支援の一環として政府が実施している健康保険料の納付猶予については、「事業主にとって猶予は、協会けんぽから借金をしていることであって、消費税の滞納と同じだ」と指摘。「コロナで苦しんでいる事業主や従業員への支援策を積極的に国に要望してほしい」と訴え、協会けんぽへの国庫補助を法定上限の20%に引き上げると同時に、給付と負担の見直しを通じて事業主と従業員の負担を軽減すべきだと主張した。

石上千博委員(連合副事務局長)は、医療へのアクセスを将来も確かなものとするためには、健全な保険財政を確保する必要性を指摘した一方、協会けんぽの令和元年度決算で準備金残高が給付費等の4.3か月分(3兆3920億円)であることに触れたうえで、「コロナの影響で企業の存続自体が危機的な業種もあり、医療費負担の軽減に対する期待が高まっている。今回、保険料率の決定を判断する際は、これまで以上に丁寧な説明が必要となる」と述べた。

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