健保ニュース
健保ニュース 2020年8月合併号
3年度の毎年薬価改定に向けて
中医協が薬価調査の実施を了承
幸野理事 国民負担を確実に軽減
中央社会保険医療協議会(小塩隆士会長)は7月22日、総会を開催し、令和3年度からの毎年薬価改定に向けた2年度医薬品価格調査(薬価調査)について、規模を縮小したうえで実施することを了承した。7月17日に閣議決定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」で、2年度薬価調査の実施が前提とされたことから、厚生労働省はこの日の会合に6月17日と同様の内容の実施計画を改めて提案。診療側は、2年度薬価調査の実施に遺憾の意を表明したうえで、▽調査結果にもとづく薬価改定の是非は改めて検討▽調査の実施に際しては医療現場へ十分に配慮─することを条件として薬価調査の実施に了承した。健保連の幸野庄司理事は、新型コロナウイルス感染症に伴い、医療保険財政も危機的な状況となることが想定される今だからこそ、毎年薬価調査・改定の本来の目的である国民負担の軽減を確実に実現すべきとの考えを示した。
毎年薬価調査・改定については、平成28年12月20日の経済財政政策担当大臣・財務大臣・厚生労働大臣・内閣官房長官の4大臣合意により、国民負担の軽減を実現する観点から実施することが決定された。
その後、「骨太方針2018・2019」においても、「毎年薬価調査・改定は、2021年度における薬価改定の対象範囲について、市場実勢価格の推移、薬価差の状況、医薬品卸・医療機関・薬局の経営への影響を把握したうえで、2020年中に総合的に勘案して決定する」こととされていた。
中医協では、令和2年4月8日から毎年薬価調査・改定の検討に着手し、6月17日には、▽購入側調査の客体を例年の半分の規模▽販売側調査に2/3の抽出率を設定─など、新型コロナウイルス感染症に伴う医療現場の負担に配慮し規模を縮小した2年度薬価調査の実施計画を提案したが、薬価調査の実施の可否が最大の論点となり、議論の膠着状態が続いていた。
2年度薬価調査の実施の可否に対する政府の方針が焦点となるなか、7月17日に閣議決定された「骨太方針2020」では、「本年の薬価調査を踏まえて行う2021年度の薬価改定は、骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して十分に検討し決定する」と記載され、2年度薬価調査の実施を前提としていることが明示された。
政府方針を踏まえ、厚労省は、この日の会合に、6月17日と同様の内容の2年度薬価調査の実施計画案を改めて諮った。
診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「2年度薬価調査を実施する判断がなされたことは大変遺憾である」と述べたうえで、実施するのであれば、医療機関の負担を軽減するための調査方法の工夫や、7月豪雨被災地の調査対象からの除外を行うことを求めた。
さらに、「今回実施する薬価調査は、医療現場との齟齬が生じる懸念が多々ある」と問題提起し、▽例年よりも慎重に調査結果を検討したうえで薬価改定の是非を改めて検討▽調査に際しては、医療現場に十分配慮して実施─することを条件として2年度薬価調査の実施に了承するとした。
診療側の林正純委員(日本歯科医師会常務理事)は、「薬価調査の結果が精度の高いものでない場合、薬価改定は見送るべきということを重ねて要望したい」と強調した。
健保連の幸野庄司理事は、新型コロナウイルス感染症は、医療界や製薬業界だけでなく、日本経済全体に悪影響を及ぼしているとの認識を示し、企業の業績悪化で医療保険財政も危機的な状況となることが想定されると指摘。
そのうえで、毎年薬価調査・改定の本来の目的の1つである、国民負担の軽減については、こういう状況だからこそ確実に実現すべきとの考えを示した。
回収率の低下から正確な市場実勢価格は得られないなどの懸念に対しては、過去の薬価調査の結果を参照して様々な角度から結果を確認し、必要に応じて個別精査するなど、「柔軟な対応を行ってルールを決める方法にすることで何とか乗り切れる」と主張した。
2年度薬価調査は、例年に比べ1か月程度スタートが遅れたが、例年と同様、9月に調査を実施し、12月に速報値を報告するスケジュールとなっている。診療側委員の指摘を踏まえ、厚労省は、購入側調査にかかる医療機関の負担を軽減する方法を検討するとともに、薬価調査の対象から7月豪雨被災地を除外することを決めた。
中医協では、次回以降、薬価改定のルールや適用範囲などについて議論を進めていくこととなるが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続くなか、医療現場に与える影響や薬価改定の実施に慎重な与党の意向、令和3年度予算編成過程の動向などが複雑に交差し、改定の是非は年末の決着まで不透明な様相を呈することが想定される。
新型コロナの医療現場への影響
診療側が議論の素材を要望
診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は7月22日に開催された中医協総会で、新型コロナウイルス感染症が医療現場に与えた影響を把握し、今後、中医協で幅広く議論するための素材を提示するよう厚生労働省に要望した。
松本委員は、「新型コロナウイルス感染症は、すべての医療現場に様々な影響を色濃く与えている」と指摘したうえで、「新型コロナウイルス感染症が医療現場にどういう影響を及ぼしているかを把握することは大変重要と考えている」と問題提起。
重症・中等症の新型コロナウイルス感染患者に対する診療報酬上の評価を通常の3倍に引き上げるなど、4月以降、中医協で対応してきた特例措置の影響も含め、今後、中医協で幅広く議論するための資料の準備を事務局に求めた。
松本委員の意見に対し、健保連の幸野庄司理事は、「新型コロナウイルス感染症に伴う診療報酬上の特例的な対応の影響はしっかり検証すべきと考えるが、医療機関の経営状況について中医協の場で議論するのは違和感がある」と疑問視。
仮に、医療機関の経営状況と診療報酬の対応を絡めて議論することが前提であるならば、「明確に反対したい」と強調した。
厚労省は、「今後の議論の参考となるよう、新型コロナウイルス感染症が医療現場に与えている影響を把握するための資料を早急にとりまとめ、次回の中医協総会に提示する」との意向を示したうえで、「どのような視点で議論を進めていくかは、中医協の場で決めること」と応じた。