健保ニュース
健保ニュース 2020年7月下旬号
社保審・医療保険部会
改革案は年末に取りまとめ
次回以降、具体的な議論に着手
社会保障審議会の医療保険部会(部会長・遠藤久夫学習院大学経済学部教授)が9日に開かれ、医療保険制度改革案の取りまとめの時期を、12月末に延期することを正式に決定した。新型コロナウイルス感染拡大を受け約3か月ぶりに開催した前回の会合で、今夏に予定していた取りまとめの時期を、全世代型社会保障検討会議の最終報告が年末に先送りされたことを受けて、延期することを確認しており、この日の会合で、厚生労働省から医療保険制度改革に向けた議論の進め方が示された。医療保険部会では、次回以降、取りまとめに向けた具体的な議論に着手するこことなり、後期高齢者の自己負担2割への引き上げやその所得基準の設定などの議論が本格化するものと見込まれる。
昨年末にまとめられた全世代型社会保障検討会議の中間報告を受けて、医療保険部会では今年1月から議論を開始し、後期高齢者の自己負担割合や「現役並み所得」の判断基準といった高齢者医療に関わる喫緊の問題から、傷病手当金や任意継続被保険者といった制度疲労が顕著な問題まで、医療保険制度に関する議論を一巡させた。その後、新型コロナウイルスの影響により、4月から6月中旬まで会合が開かれず、前回6月19日の会合から議論を再開した。
全世代型社会保障検討会議では今年夏に、最大の課題である医療保険制度改革案を最終報告として取りまとめる予定だったが、5月の会議で取りまとめ時期を12月末へ延期することを決定。これを受けて厚労省は医療保険部会での議論の進め方について、全世代型社会保障検討会議の検討状況をにらみながら、取りまとめの時期を今年12月末に延期し、次回以降に具体的な議論に着手したいと、この日の会合で提案理由を説明した。
健保連の佐野雅宏副会長は、厚労省の提案に対し、これまでの状況を考慮するとやむを得ないと同意したうえで、団塊世代が後期高齢者に移行することによる高齢者医療費の急増、それに伴う医療保険財政の悪化が加速する「2022年危機」が、新型コロナウイルスの影響により早まるのではないかと危機感を表明した。さらに、「国民皆保険制度の持続性確保のため、後期高齢者2割負担導入など給付と負担の見直しを、これ以上先送りすることのないようしっかり議論すべきだ」と主張した。
新型コロナの影響懸念
健保組合に財政支援を
佐野副会長
佐野副会長は、新型コロナウイルスが経済面だけでなく、医療保険財政にも悪影響を及ぼすことが予想されると懸念し、健保組合にとっては保険料の納付猶予も広がっており、深刻な状況となっていると説明した。
健保連では現在、直近の健保組合の財政状況について調査しているが、賃金や賞与の大幅な低下が見受けられるため、平成20年に発生したリーマンショックに匹敵する保険料収入の減少も危惧されている。そのため佐野副会長は、新型コロナウイルスの影響を受け財政が悪化した健保組合に対する財政支援を求めた。
安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、医療保険部会の取りまとめの時期が12月末に延びることはやむを得ないとしながらも、これ以上の延期は許されないとし、後期高齢者2割負担導入など給付と負担の見直しに関する具体的な検討に取り組むよう求めた。
不妊治療の保険適用
実態を把握し議論を
また、この日の会合では、全世代型社会保障検討会議が7月にまとめた第2次中間報告に、少子化対策として公的医療保険の対象に含まれない不妊治療の適用拡大を検討すると明記されたことについて、複数の委員から意見が相次いだ。
第2次中間報告では、体外受精など高額な費用がかかる不妊治療の経済的な負担軽減を図ることを目的に、適応症と効果が明らかな治療に対しては、費用補助や保険適用の対象拡大を検討するための調査研究を行うと示されている。
健保連の佐野副会長は、不妊治療にかかる個人の経済的・社会的負担は大きいため、公費による負担軽減や、治療と仕事の両立・継続に向けた支援を充実することは理解できると表明した。
そのうえで、病気やけがの治療、死亡や出産を目的とした健康保険制度における給付の考え方を踏まえ、不妊治療の実態把握や調査を進め、課題を整理したのちに議論すべきと要望した。さらに高額な新薬の保険適用などに伴い今後、医療費の増大が見込まれるなかで、保険適用の対象拡大を検討するにあたっては、既存医薬品に対する保険給付のあり方を含めた検討が必要とした。
安藤委員や藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)などからも、不妊治療の実態や効果などを把握したうえで、議論するよう求めた。
ー 佐野副会長 発言のポイント ー
- 医療保険部会での取りまとめの時期を今年12月末に延期することはやむを得ない。
- 給付と負担の見直しを、これ以上先送りすることのないよう、しっかり議論すべき。
- 新型コロナウイルスは、医療保険財政にも悪影響を及ぼすことが予想される。
- 平成20年に発生したリーマンショックに匹敵する保険料収入の減少も危惧されるので財政支援が必要。