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健保ニュース 2020年3月中旬号

幸野理事が2年度診療報酬改定を総括 その(1)
給付の見直しに踏み込めず「残念」
入院料の基準厳格化は評価

中央社会保険医療協議会の支払側委員を務める健保連の幸野庄司理事は、本誌のインタビューで令和2年度診療報酬改定を総括した。第1回は全体の感想と入院を中心に聞いたところ、「2022年危機を前に、給付の見直しに大きな道筋をつけられなかったことは残念である」と述べ、保険給付範囲の見直しを今すぐに中医協など関係審議会で議論する必要があると訴えた。医師の働き方改革については、診療報酬上の対応による成果を明らかにする必要性を指摘し、アウトカム評価のあり方を今後の検討課題にあげた。入院医療では、機能分化に向け、急性期一般入院料上位の基準値を厳格化したことを評価し、転換が加速していくことに期待した。

──令和2年度改定の議論を振り返って。

消費増税改定の議論が昨年2月頃まで行われ、出だしが遅れた感がある。
 春から夏の第1ラウンドでは、診療報酬項目にとらわれすぎない活発な議論を促進する観点から、患者の疾病構造や受療行動を意識しつつ、年代別・世代別の課題と、昨今の医療と関連性の高いテーマについて課題を整理した。第1ラウンドの総論的な議論が7月24日に取りまとめられて第2ラウンドに入った。個別の議論が本格化したのは11月頃で、入院医療は11月15日からだった。個別テーマでも抽象的な議論が多く、あまり大きな改定を厚生労働省は想定していないような気がした。

平成30年度改定は入院基本料の再編・統合や薬価制度抜本改革もあり、非常に大きな改定であったが、今回の改定は医師の働き方改革に多くの時間と財源が割かれた感がある。

医師の働き方改革への対応では、救急病院の勤務環境改善を目的として異例にも改定率でプラス0.08%が確保されたほか、医師事務作業補助体制加算と看護職員夜間配置加算が大幅に引き上げられるなど、多くの財源が投入された。これだけでなく、総合入院体制加算や入退院支援加算などの人員配置の要件緩和や事務手続きの簡略化も行われ、加算が取りやすくなったことで、予想以上に医療費が増大することを懸念している。

そのほかは、平成30年度改定で進捗しなかったもの、趣旨から外れた方向へ動いたもの、普及が思うように進まないものに対する施設基準や算定要件のメンテナンスにとどまった感がある。

今回の改定は、医療提供側には大きな成果があったと思われるが、支払側としては、団塊の世代が75歳に到達し始めて医療費が急増する「2022年危機」を前に、さらに厳しくなる医療保険制度の改革、とくに給付と負担のうち、中医協の所掌となる「給付」の改革に大きな道筋を付けることができなかったのは残念である。

医師の働き方改革は、確かに患者の安全にとっても重要であり、改革に異論はないが、国民皆保険制度を維持していくには、医師の働き方改革よりも重要な課題もある。真の給付のあり方などについては、しっかりと議論すべきである。

政府の全世代型社会保障検討会議が昨年末にまとめた中間報告に後期高齢者の窓口負担2割への引き上げが盛り込まれた。医療保険財政が急速に悪化する「2022年危機」が見込まれるため、負担の見直しに関する議論に着手したわけだが、給付の見直しについては議論がまったく進んでいない。給付と負担の見直しを巡る議論は、中医協をはじめ関係審議会で、今すぐにでも始めなければならない。なかでも、保険給付範囲の見直しは中心的に議論すべきだ。

今回の改定で、ギャンブル依存症治療が新たに保険適用され、ニコチン依存症管理料は対象が拡大されるが、そうであれば市販品で代替可能なOTC類似薬の保険適用のあり方も同時に議論すべきだった。保険者としては、あらゆる審議会などの場を通じて主張していく。

──医師の働き方改革を推進するため加算の新設や人員配置要件の緩和などが行われる。

医師の働き方改革を推進していくうえでは、医療機関自ら取り組むべきこと、国が予算をつけて進めるべきこと、国民の医療への向き合い方等のそれぞれに役割がある。医師の時間外労働上限規制が適用される令和6年4月までに、今回を含めて診療報酬改定は3回あるのだから、進捗を確認しながら段階的に対応していくべきと主張したが、最初の改定から大きな財源が投入された。

まさに「2022年危機」が想定される次回以降の改定でも医師の働き方改革に財源を投入し続けるのか。このままでは医師の働き方改革の前に国民皆保険が崩壊の危機に直面することになる。

地域の救急医療で重要な機能を担う医療機関の勤務環境改善は、地域医療介護総合確保基金のような公費で対応すべき課題と考えていたが、診療報酬上の対応が行われた。

診療報酬で対応するということは、医師などの働き方改革を患者や保険者が負担することであり、算定要件や施設基準については慎重な対応が求められる。

救急病院の働き方改革を後押しするために新設する「地域医療体制確保加算」については、勤務医の負担軽減・処遇改善計画の作成だけでなく、計画にもとづく業務の効率化などの成果が明らかとなった場合に算定可能にするなど、アウトカム評価のあり方について検討を進めていく必要がある。

患者が負担する限りは、そのアウトカムを「見える化」する必要があり、算定する医療機関には進捗状況の報告を義務づけるべきである。

──入院医療の機能分化に向けて急性期一般入院料1について、「重症度、医療・看護必要度」の基準値を引き上げることにより、病棟転換は進むか。

平成30年度改定の教訓を踏まえ、一定の修正が行われたと評価する。
 「重症度、医療・看護必要度」の該当患者割合の判定基準の見直しに関する影響調査では、該当患者が上振れした事実が判明した。認知症患者に重み付けした基準をクリアする医療機関が多く、急性期で最も手厚い患者7人ごとに1人の看護配置を評価する「急性期一般入院料1」の該当患者割合は平均33.5%で、「重症度、医療・看護必要度Ⅰ」の基準値30%を上回っていた。

入院分科会では、「認知症やせん妄状態に重み付けした基準が急性期医療の患者像として妥当か」と疑問が相次ぎ、今回改定でこの基準を削除することになった。

手術後の患者の状況を評価するC項目についても、入院実施割合が90%以上で2万点以上の手術を追加するなど、急性期の患者の指標として相応しい評価へと厳格化した。

判定基準や評価項目の見直し後の該当患者割合のシミュレーションでは、該当患者割合が見直し前の33.5%から30.3%へと3.2%下振れした。

今後、さらなる高齢化と現役世代の人口減少が加速するなか、旧7対1病床が急性期病床の象徴として位置づけられる必要はなく、急性期病床は再編された入院料1~入院料7に適切に配分されることが求められる。

支払側としては、わずか6.5%しか入院料1から転換しなかった前回改定の教訓を踏まえ、確実に効果がでるよう「重症度、看護・医療必要度Ⅰ」の該当患者割合の基準値を35%とすることを主張した。

35%としたのは、前回改定で入院料1~入院料4の間隔が1%刻みとなっていた間隔をもう少し広げる意図もあった。

そのためには、入院料1の基準値をより高くする必要があり、入院料1を35%、入院料4を25%とすることにより、入院料1~入院料4の間隔を3%程度確保できると考えた。

一方、診療側は該当患者が下振れすることを踏まえ、基準値を28%程度に引き下げることを主張し、お互いが譲らなかったため、最終的には平成30年度改定と同様に公益裁定となった。

その結果、入院料1は31%、入院料2は28%、入院料3は25%、入院料4は22%となった。

入院料1については、一見すると現行基準から1%の引き上げに見えるが、該当患者が3.2%程度下振れするのを加味すると、実質4%程度の基準引き上げとなる。

影響のシミュレーションが正確であれば20%以上の病床が影響を受けることになり、少なくとも平成30年度改定のような結果にはならないと考えている。転換が加速していくことを期待したい。

病院経営者も旧7対1を急性期の象徴とし、それを維持し続けることが経営を悪化させることを理解いただきたいと思っている。

今後も転換の推移を見極め、入院料が高額な病床については、基準値のさらなる引き上げを主張していきたい。

重症度、医療・看護必要度の測定方法では、看護師などが患者の状態を記録する「Ⅰ」に加え、平成30年度改定から多様な医療ニーズに対応した診療行為や患者の状態、アウトカムといった変動的な要素をより的確かつ客観的に把握できるよう、診療実績データ(DPCデータ)がそのまま反映される「Ⅱ」が導入された。

入院患者の評価にかかる医療従事者の負担軽減や、長期的に安定した判断を可能とする観点から、DPCデータにもとづくⅡを採用していくことが求められる。

入院料1~入院料4の基準値は、ⅠとⅡでいずれも5ポイントの差が設定されていたが、その差が2ポイントに縮まり、Ⅱの基準値は入院料1が29%、入院料2が26%、入院料3が23%、入院料4が20%となった。

上位の基準値を厳格化したことは、支払側の主張が一定程度反映されたと思っている。
 許可病床400床以上の一般病棟と特定機能病院については今回、Ⅱが要件化された。それ以外の病棟については選択性となっているが、次回は選択性を廃止し、可能であればDPCデータによる実績評価に一本化することが望ましい。

──地域包括ケア病棟の機能を発揮するため要件を一部厳格化したが。

平成30年度改定で実績部分の要件に応じて高い点数を設定したが、点数に見合った機能を果たしているかが議論となり、本来の機能を取り戻すべく要件の修正が行われた。

地域包括ケア病棟は、▽ポストアキュート、▽サブアキュート、▽在宅復帰─といった機能を持っているが、比較的規模の大きなケアミックス型病院でポストアキュートとしてのみ活用されていることが判明した。

入棟元として自院の一般病床が約半数を占めており、自院からの入棟が100%という医療機関も多かった。

これに対し、許可病床数が400床以上の病院では自院からの受け入れを6割未満とすることや、実績部分である自宅等からの受け入れ要件の割合を高くする見直しが行われたのは、本来機能を取り戻すきっかけになるのではないか。

地域包括ケア病棟では、もうひとつ大きな問題が発覚した。DPC病棟と地域包括ケア病棟の両方を持つ病院の場合、地域包括ケア病棟への転棟時期がある時期に集中していたのである。

その日は、DPCの入院期間がⅠからⅡに切り替わる時期に集中していた。
 DPCによる入院基本料と地域包括ケア病棟入院基本料の点数が逆転する日に転棟し、点数が高い地域包括ケア病棟入院基本料を算定している病院が多いことが判明した。

こうした状況を改善するために、DPC対象病棟から地域包括ケア病棟に転棟した場合も入院日Ⅱまでの間はDPCによる算定を継続することになったが、点数が高い方の入院基本料を算定することは患者の状態を全く考慮しない対応であり、DPCからの退出を求めても良いくらいの問題ではないかと感じた。

──回復期リハビリテーション病棟入院料は、実績評価の正確性を担保するため、入棟時における日常生活動作の測定値を患者へ説明することが要件化される。

回復期のリハビリテーションについては、とにかくアウトカム評価を重視したい。
 回復期リハビリテーション病棟のアウトカムでは、患者の日常生活動作がどれくらい改善したか評価する実績指数を算出する際に「FIM」と呼ばれる測定法を用いている。

問題となったのは、このFIMが恣意的に操作されていないかという点であった。FIMが導入された平成28年度以降、入棟時のFIMの値が低下する一方、退棟時のFIMの値が上昇しており、その差が拡大し続けている。

支払側は、FIMによる測定をより「見える化」するために、回復期リハビリテーション病棟に入棟する患者に対し、現時点でのFIMの値と、目標とするFIMの値について説明することを求めた。

その結果、患者への説明とリハビリテーション計画書の交付が回復期リハビリテーション病棟入院料の算定要件に盛り込まれることになり、その効果を期待している。

このほか、支払側からすべての入院料にFIMを実績要件とすることを主張したが、これは実現しなかった。

入院料1、入院料3、入院料5については、すでに実績要件としてFIMが要件化されているが、これらの入院料では実績値が基準値を大きく上回っており、入院料2よりも点数が低い入院料3の方がFIMの実績値が高いというのは大きな矛盾である。

今回の改定でFIMの基準値が引き上げられたことは評価するが、すべての入院料にFIMが設定されなかったのは、次回の課題として残された。そもそも回復期リハビリテーション病棟入院料が6区分も必要なのか、もっと再編・統合してもいいのではないかといった点も課題である。

──療養病棟は介護医療院への転換推進が論点となったが。

平成30年度改定で廃止となった「看護配置25対1以上」の病棟は、受け皿となる介護医療院への転換がわずか3%にとどまる一方、「看護配置20対1以上」の療養病棟入院料1、2への転換は8割以上を占め、国の意図する方向へは進んでいないことが判明した。

また、「看護配置20対1」を満たせない場合の経過措置を選択している病棟が1割以上あり、経過措置のあり方も議論となった。

療養病棟については、受け皿として一昨年に新設された介護医療院への速やかな移行を推進すべく診療報酬においても対応すべきと主張してきた。

その要因は、療養病棟入院料2の存在であると思っている。医療区分2または医療区分3の患者割合が50%以上を要件とする入院料2を廃止し、療養病棟は80%以上を要件とする入院料1に一本化すべきということは、前回改定でも主張してきたが叶わなかった。

今回も同じ主張を繰り返したが一本化は元より、基準の引き上げも行われなかったのは残念である。

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