健保ニュース
健保ニュース 2019年10月上旬号
被用者保険の適用範囲
企業規模要件 撤廃視野に対象拡大
有識者懇が議論取りまとめ
厚生労働省の「働き方の多様化絵を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」(座長・遠藤久夫国立社会保障・人口問題研究所所長)は9月20日、議論の取りまとめ案を大筋で了承した。短時間労働者への被用者保険の適用拡大に向け、企業規模要件に関して将来的な撤廃も視野に入れて適用企業の範囲を広げるなど、一定の方向性を示した。今後は、社会保険審議会の医療保険部会や年金部会での議論を経たうえで、来年の通常国会へ関連法案を提出する見通し。
企業規模要件に関しては、前回会合で「見直しを検討する必要性が示された」となっていたものが、「本来的な制度のあり方としては撤廃すべきものであるとの位置づけで対象を拡大していく必要性が示された」という表現に改められた。企業規模要件は、中小企業の負担軽減のために設けられ、当分の間の経過措置となっている。平成28年10月から従業員501以上の企業が対象となり、29年4月に500人以下の企業も労使合意にもとづき適用拡大が可能になっている。委員から「企業規模の違いによって社会保険の取り扱いが異なることは不合理であり、経済的中立性、経過措置としての位置づけ等にも鑑みれば、最終的には撤廃すべき」といった意見があがっていた。
企業規模要件の見直しにあたっては、事業者負担の大きさを考慮したうえで、過重な負担にならないよう施行時期などの配慮や支援措置の必要性を明記した。厚労省によると、被用者保険の適用拡大に伴う社会保険料の事業主負担総額を29年度でみた場合、年間約850億円にのぼると試算している。
労働時間や賃金の要件については、現行要件の維持と見直しの両論を併記した。労働時間は、雇用保険の適用基準を参考に設定した現行の要件20時間以上の妥当性をめぐって意見が分かれたものの、全体としてはまず20時間以上の者への適用拡大の検討を優先課題とし、短時間労働者の就業に与える影響などを考慮しながら引き続き検討していく必要があるとした。
月収8.8万円以上を基準とする賃金に関しては、都市部と地方の間の賃金水準の差異による適用の違いや就業調整の要因になることから要件見直しを求める意見と、最低賃金が上昇している動向や国民年金第1号被保険者の負担と給付とのバランスの観点から現行の基準を維持する意見の両方をあげ、それらの意見を踏まえて、制度見直しの緊要性の程度を考えつつ検討していくこととした。
継続勤務が1年以上を基準とする勤務期間要件については、事業主の事務負担を軽減するために設けた趣旨や実務上の取り扱いの現状を踏まえて要件を見直していく方向性を示した。
健康保険との関係については、「厚生年金との制度上の差異に係る指摘があった一方、実務上の課題を踏まえ一体的運用を維持することの必要性も示された」とし、医療保険財政について、適用拡大による影響を試算し、必要な対応策を講じる必要性を指摘した。
これに対して健保連の河本滋史常務理事は、医療保険財政に与える影響の試算を求めるとともに、「仮に健康保険における適用拡大を行う場合には、影響を受ける業種が限られるので、財政影響を受ける健保組合に対して所要の対応策として財政支援をお願いしたい」と要望した。