健保ニュース
健保ニュース 2019年6月上旬号
厚労省が2040年社会保障・働き方改革を決定
健康寿命延伸などを推進
給付と負担の見直しは先送り
厚生労働省の幹部で構成する「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」(本部長・根本匠厚労相)は5月29日、▽多様な就労・社会参加▽健康寿命の延伸▽医療・福祉サービス改革による生産性の向上─を柱とする施策を取りまとめた。
2025年以降に現役世代の人口減少が加速し、高齢者数がピークに達する2040年に向けて、社会の活力の維持向上と少ない人手でも医療・福祉の必要なサービスを確保することを重視し、主要分野ごとの政策集として①健康寿命延伸②医療・福祉サービス改革③就職氷河期世代活躍支援─の3つのプランを策定した。
10月に予定される消費税率10%への引き上げにより、これまで進めてきた社会保障・税一体改革が一区切りするとして、その次の社会保障改革の大きな節目となる時期に2040年を射程に入れた。
給付と負担の見直しについては、制度の持続性を確保するための主要政策の柱に位置づけているが、来年に策定される政府の骨太方針2020に向けて対応を検討することになっていることを踏まえ、後期高齢者の自己負担のあり方など政府が従前から掲げている検討項目を列挙するにとどめ、「引き続き取り組む政策課題」とした。
根本厚労相はこの日の本部会合の冒頭あいさつで、「社会保障の持続可能性を確保するために、これまで進めてきた給付と負担の見直しについても引き続き検討を進めていきたい」と述べた。
今回取りまとめた施策ついては、6月に策定される新たな骨太方針や未来投資戦略、厚労省の次年度予算概算要求などへの反映をめざし、制度改革や運用面の工夫などを通じて具体化を進めていく。
健康寿命の延伸プランは、日常生活に制限のない期間を男女とも2016年から2040年までに3年以上延ばし、75歳以上(男75.14歳以上、女77.79歳以上)とすることを基本目標としたうえで、2025年までに取り組む施策を示した。
このなかで疾病予防・重症化予防対策のひとつに、生活習慣病患者への医学的管理と運動プログラムの一体的提供を盛り込んだ。運動施設で活用できる年齢と性別を勘案した標準的なプログラムを今年度中に策定し、医療機関と保険者・民間事業者の連携を進め、インセンティブ措置を活用した具体的方策を検討する。
プログラムの策定後、保険者インセンティブ制度における評価のあり方を検討するとともに、医療機関が患者に健康増進施設を紹介しやすくするなど、運動プログラムの利用促進に向けた環境づくりを推進する。
現在、医師の処方にもとづき、厚労省認定の健康増進施設で運動療法を受けた場合の利用料を医療費控除とする仕組みがあるが、認知度が低いことなどから利用が広がっていない。
このため、標準的なプログラムを策定することで、医師による運動処方を促進する。患者にとっては健康増進施設などで医学的根拠にもとづいた運動療法が提供されるとともに、プログラム参加費用が医療費控除される。
保険者へのインセンティブでは、後期高齢者支援金の加算・減算制度や国保の保険者努力支援制度など既存の仕組みの活用を念頭に、プログラムに患者が参加することなどを評価指標に加えることを検討する。
この施策とは別の項目建てで、保険者インセンティブを強化する方針を打ち出し、後期支援金の加減算制度について、減算保険者における好事例の横展開や評価指標の見直しに取り組む。
ナッジを活用した予防も重視し、がんの年齢調整死亡率の低下や、現目標である2023年度までの特定健診実施率70%以上の達成をめざす。特定健診・保健指導の実施率向上策は、先進・優良事例を全国に広げるなど効果的な方策を検討する。
健やかな生活習慣形成に関する施策では、個人の健康等情報を電子記録として本人や家族が把握するPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の活用促進に向けて、特定健診と乳幼児健診等のデータを2020年度から、薬剤データを2021年度からマイナポータルを活用して提供する。
また、PHRを推進するための検討会を設置し、提供する情報の範囲や形式について2020年度早期に基本的な方向性を整理する。
多様な就労・社会参加は、人口減少と高齢化が進むなか、より多くの人が意欲や能力に応じて社会の担い手として長く活躍できる環境の整備を基本コンセプトとした。
具体的な施策として、70歳まで就業機会を確保する制度を創設する。従来の65歳までの雇用確保措置に加え、グループ企業以外への再就職やフリーランス契約、企業の支援を通じた起業や社会参加など企業が採り得る選択肢を拡大する。
高齢期の経済基盤を充実させる観点から、年金制度改革にも着手し、健康保険制度に関連する短時間労働者への被用者保険適用拡大に取り組む方針を示した。
医療・福祉サービス改革プランは、ロボットやICTなどの活用による業務代替などで生産性の向上を図り、2040年までに医療・福祉分野全体で5%以上、医師は7%以上の業務効率化をめざす。