働き盛りのメンタルヘルス vol.28
先月に引き続き、精神疾患を考える4つの分類における「気にしすぎタイプ」について、今月は事例を通じて考えていきます。
※このコラムは「健康保険」2012年7月号に掲載されたものです。
事 例:「気にしすぎタイプ」Bさんとの付き合い方に悩むAさん
(30代/事務職員)
今年度、他部署より異動してきたBさんとどう付き合って行けば良いか、よくわからず悩んでいます。異動後しばらくの間は、誰もが緊張するでしょうし、新しい職場に馴染むのには時間が必要だと思い、同僚や上司共々Bさんを温かく見守ってきました。しかしBさんは、異動から3カ月たった今も、職場での居心地が悪そうに見えます。
たとえば、急ぎの仕事がなく、職場が比較的落ちついているような状況であってもせわしなく、リラックスしている様子がみられません。仕事面では、簡単な書類でも出来上がってくるのが遅い、一度教えた仕事の手順についてたびたび確認してくる――といったことが頻繁におきています。また、Bさんあての電話がかかってきた時や、上司や同僚から声をかけられた時には、Bさんはとても緊張しているように見えます。
近頃は、明らかに調子が悪そうな状態で、同僚が声をかけてみると、なかなか寝付きが悪く疲れが取れない日々が続いているそうです。
事例のポイント
「気にしすぎタイプ」の特徴は、周囲のことが気になりすぎて、考えなくてもよいことまで考えてしまう点にあります。そして、「自分はしっかりとやれているだろうか?」と不安が強まり、その不安を払拭するために、過剰に頑張りすぎてしまっている状態に置かれているのです。
今回の事例では、Bさんが職場でリラックスできる時間を持てていないことから、余裕のなさや過剰な頑張りで、常に緊張状態にあることが伺えます。また職場の行動を見ても、自分の名前を呼ばれただけで不安を感じる様子から、「自分は何かミスを犯したのではないか?」という過剰な不安を抱えている状態にあると考えられます。
Bさんは、環境を査定する力が過剰に働いているため、仕事においても要求水準を超えたレベルを求められていると、常に感じているようです。そのため自分で設定した、高すぎる水準を満たそうとして、作業に多くの時間を必要としたり、ミスをしないように頑張りすぎてしまう傾向が強く見られるのです。しかも、このような傾向は職場のみではなく、家庭や友人関係といったプライベートの生活場面においても生じていると考えられます。
ゆえにあらゆる場面において、自らが設定した「求められている役割像」に常に合わせるために、本来不要な努力を必要とする状態に自分を追い込んでしまっているのです。その結果、過剰な水準に合わせ続け、常に不安や緊張と背中合わせの状況に置かれている日々に体が悲鳴をあげ、不眠や疲れやすいといった症状が出るようになってしまいました。
精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類
「気にしすぎタイプ」が罹患しやすい疾病の例
今回取り上げた、Bさんのケースは、もしかしたら全般性不安障害(GAD:Generalized Anxiety Disorder)という病気かもしれません。不安とは、漠然とした恐怖や心配に苛まれる心理状態であり、誰もが経験している感情の一つです。しかし通常は、不安を感じる背景に明確な理由が見出すことができます。たとえば、重要なプレゼンを控えていたり、結婚式のあいさつを頼まれているような状況では、誰もが「うまくできるだろうか…」といった不安を感じることでしょう。
このような通常の不安とは異なり、GADでは、理由や原因が明確でない不安を常に感じる状態に陥り、不眠や頭痛などの様々な症状が伴います。これでは、心身にかかるストレスが大きく、リラックスできる時間を作ることも難しいため、日常生活に悪影響が及ぶことでしょう。
加えてGADには、悪い結果を予測し、過剰な不安を感じてしまう特徴があります。これは「予期不安」とよばれ、過去に経験した極度の緊張・不安体験を思い出し、「また同じことが起きるのでは?」と、これから起きる出来事に対するネガティブな結果を想像し、強い不安を感じてしまう状態です。
不安は状況に対する過剰な反応であり、動物が危険を未然に察知し、危険から身を守るために必要な感情だとされています。もし、私達が不安を感じることがなければ、突如襲いかかってくる事故や災害から身を守ることができなくなってしまいます。しかし、今回取り上げたGADのように、あらゆる状況において不安を感じていては、日常生活が成り立ちません。「気にしすぎタイプ」の人達は、周囲の状況が見え過ぎてしまうことで常に不安や恐怖に苛まれています。そして、それらを克服するために過剰な努力を自らに課す日々を過ごしているのだと言えるのです。