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働き盛りのメンタルヘルス vol.23

メンタルヘルス不調、もしくは不調が疑われる社員とのコミュニケーション――職場の同僚ができることは何か

以前よりも、メンタルヘルスに対する職場での理解はだいぶ進んできました。しかし、メンタルヘルス不調を抱える本人も、そして周りもどのように接していいのかが良くわからないことは未だにあるはずです。今月は、メンタルヘルス不調者とのコミュニケーションをとる際のヒントについてお話します。

※このコラムは「健康保険」2012年2月号に掲載されたものです。

なぜコミュニケーションが難しいのか?

これまで、本連載では職場でのさまざまなコミュニケーションを扱ってきましたが、なかでもみなさんの頭を悩ませているのは、メンタルヘルス不調を抱える社員やメンタルヘルス不調が疑われる社員への対応ではないでしょうか。そうした社員とのコミュニケーションは、健康な社員とのコミュニケーションよりも気を使うものです。その背景には、お互いにどうしたらよいかがわからず、そのために様子をうかがいあっている、互いに気を遣いあう状況があると言えるでしょう。

一口に、メンタルヘルス不調といってもさまざまなケースがあり、専門家であっても対応や判断が分かれるケースは少なくありません。ですから、専門的な知識やトレーニングを積んでいない、一般の人がメンタルヘルスの不調に悩む人とのコミュニケーションに悩むのは、ごく自然なことなのです。メンタルヘルス不調に悩む人に対して、みなさんができることは、病気であるかを判断することなどではなく、身の丈に合ったふるまい方、接し方を実践するところにあります。

メンタルヘルス不調を抱える社員とのコミュニケーション

すでに、メンタルヘルス不調を訴えており、休職や復職プログラムの利用経験がある社員とのコミュニケーションでは、過剰にメンタルヘルス不調について意識する必要はありません。このような社内制度を利用しているのであれば、社員本人も病気の自覚があると考えられるからです。いうなれば、本人が病気について周囲にカミングアウトしている状況だといえます。このように本人が病気を認識しており、医療機関や復帰プログラム等の専門家によるサポートとつながっている状況であれば、コミュニケーションにおける周囲の特別な配慮は必要ありません。

うつ病の人に、「がんばれ」と言ってはいけないといった、メンタルヘルス不調者に対するコミュニケーションで気をつけるべきポイントを耳にしたことがあります。私も、「がんばれ」と言ってはいけないんですよね? 精神的な病気の人とは何を話せばいいんですか? と、質問されることがよくあります。もし周囲の人が、このような認識であれば、メンタルヘルス不調者への接し方は、腫れものに触るような対応になりかねません。メンタルヘルス不調者にとっては、自分が特別扱いされ、それによって職場内での居心地が悪くなることが最大のストレスになります。

メンタルヘルス不調が疑われる社員とのコミュニケーション

よりコミュニケーションの難易度が高いのは、メンタルヘルス不調を抱えているようにみえるが、実際はよくわからないケースです。つまり、周囲から調子が悪そうにみえるけれども、本人がそうは感じていない事例です。この場合、どうやってコミュニケーションをとっていくのか、通院や休暇をどうすすめたらよいのかといった具体的な対応が必要になります。基本的な考え方は、先ほどのケースと同様、腫れものに触るような接し方は避けるべきです。とはいえ、この段階にある人たちに「病院に行ったほうがいい」「休んだほうがいい」と伝えるのは、いささか危険です。結局のところ、周りからみて疲れ果てている人であったとしても、自ら休みを取ろうとしなかったり、病院に行こうとしないのは、その人なりの理由があるのです。それは、「自分はメンタルヘルス不調なんて抱えていない」というプライドによる抵抗かもしれませんし、強い責任感によるものかもしれません。

いずれにせよ、周囲からみて、「明らかに体調がおかしい」「休んだほうがいい」と思われる状況であったとしても、「出社し続ける」という選択は、本人にとっては最良な選択だと考えられます。周囲が不自然に思う行動をとっていたとしても、本人は最善・最適な選択をしているつもりなのです。それゆえ、たとえ休暇の必然性が明らかだとしても、本人の選択を否定し、自尊心を傷つけるようなコミュニケーションは職場の同僚としては避けたほうが無難です。

しかしながら、周囲からみて明らかに疲労困憊な状況では、本人にもなんらかの気付きや迷いがあると考えたほうが自然です。このようなケースにおいて周囲ができることは、彼・彼女の迷いや不安に耳を傾けることです。欲張って具体的なアドバイスをしようとせず、ただ相手の話を聞く。その機会を作るだけでも、相手にとっては大きな意味をもちます。こうした場面での話題は、体調に焦点を絞って頑張っている現状を労う程度にとどめ、心理的な不調にはこちらから触れないほうがよいでしょう。

メンタルヘルス不調を抱える人、メンタルヘルス不調が疑われる人に対して、職場の同僚ができることは限られています。大切なことは、何を言うか・言わないかでも、どう接しようかでもなく、メンタルヘルス不調者が職場にいやすい環境づくり、すなわち、特別視することで彼・彼女の居場所を奪わないように配慮することです。つまりメンタルヘルス不調によって、その人が感じているつらい気持ちや、大変な状況に思いをはせて、「大変だろうな」と思いつつも、普段通りに接することができれば十分なのです。

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