HOME > 健康コラム > 働き盛りのメンタルヘルスベストセレクション > 働き盛りのメンタルヘルス vol.17

働き盛りのメンタルヘルス vol.17

相手に関心を持たなければコミュニケーションは成立しない

今回は、コミュニケーションの構造について、実際の流れを追いながら見ていきます。

※このコラムは「健康保険」2011年8月号に掲載されたものです。

コミュニケーションは相手に関心を持つことからはじまる

コミュニケーションは、「キャッチボール」にたとえられることがあります。コミュニケーションをキャッチボールとするならば、少なくともボールを「投げる人」と「受けとる相手」が存在しないと成立しません。また、そのやりとりに目を向けてみると、言葉に加えてしぐさや表情、声のトーンなど、非言語的メッセージの存在が見えてきます。コミュニケーションにおいて、言語的・非言語的なメッセージが他者との間でやりとりされていることを理解すると、積極的な情報発信の有無にかかわりなく、なんらかのコミュニケーションが常に行われていることもわかります。

私たちは会話をしているとき、「うなづき」や「あいづち」を用いて、相手の話に対する共感や同意のメッセージを発しています。会話の相手が「うなづき」や「あいづち」をこちらに見せてくれれば、「理解されている」と安心し、会話を進めることができます。反対に、会話の相手がふんぞり返って腕組みをした状態では、どうでしょう。相手の表情がにこやかであっても、「理解されている」と安心するよりも、「興味がないのではないか」と不安を感じるのではないでしょうか。このように、私たちはうなづきや腕組み、話を聞く際の姿勢、目を見て話す・視線をそらすといった何気ない行為によって、コミュニケーションの相手にメッセージを伝えているのです。

さまざまなメッセージの中でも、相手に最も不安を感じさせるのは、コミュニケーションの対象に含まれていないと感じさせる、「無視」する行為です。相手が自分を「嫌い」な場合は、発したメッセージに対して、マイナスであってもなんらかの反応が得られるため、コミュニケーションは成立しているといえます。しかし、「無視」するという行為は、こちらがメッセージを発してもなんの反応も得られない、つまり、なんらかの理由で「あなたとはコミュニケーションしたくない」というメッセージを相手に送っていることになります。

前回紹介したコミュニケーション力(状況を判断する力、伝える力、受け止める力)を高めたとしても、相手とコミュニケーションをとろうとする意欲がなければ、コミュニケーションは成立しません。よりよいコミュニケーションは、対象に関心を持つところからからスタートするのです。

コミュニケーションの流れ

ここでは、上司が部下に報告書の書き方を注意する例を参考にコミュニケーションの流れを確認します。まず部下に関心を持つということは、部下に対して「きちんとした報告書を仕上げられるようになってほしい」といったプラスの気持ちを持っているかどうかだといえます。

そのうえで、部下の状況の査定(フェーズ1)を行います。これは前回触れた「状況を判断する力」にあたりますが、状況の査定とは、顔色や声のトーンなどから、相手の体調や気分を読み取ることを意味します。同じ人でも、元気な時があれば、嫌なことが続いて落ち込んでいる時もあるわけで、いつもは直言しても大丈夫な人であっても、落ち込んでいる時はそれが大きなストレスとなり、受け入れられない状態もあります。

ですから部下の状態をみながら、言い方や内容を検討する(フェーズ2)ことで、上司が発するメッセージの真意が伝わりやすくなるのです。そして、状況判断に基づいて、相手に伝わりやすい表現を用いてコミュニケーションをとっていきます(フェーズ3)。

その結果、部下の反応を見ながら状況の査定や選んだ表現が適切だったかどうかを改めて考え、必要に応じてメッセージの伝え方や内容を修正していくことによって、相手に伝わるコミュニケーションが生まれるのです。

コミュニケーションの中心には相手を据える

コミュニケーションがうまくいかない、しっくりこない状況では、いずれかのフェーズで問題が発生していると考えられます。

先ほどの例は、部下にとって決して楽しい種類の話ではありません。そのため、義務的に指導しなければならないとか、面倒だなというふうに、上司のコミュニケーションへの意欲が低い、言いかえれば、部下への関心が低い状態でコミュニケーションがうまく進むとは考えられません。

コミュニケーションを阻害する要因は、ほかにも多くあります。たとえば、誤った先入観や思い込みで相手を判断する、相手の置かれた状況を考えようとしない、相手の話を聞けていない、自分の主張を押し付ける――などです。

これらはいずれも、コミュニケーションが〝相手ではなく自分主体〟になってしまっている例です。自分主体のコミュニケーションは、相手に対してマイナスのメッセージを発しがちです。それが一部の個人間のみならず、職場全体に広まってしまえば、職場内のコミュニケーション全体もマイナスのメッセージに支配されてしまいます。

職場においては、初めてその人と出会ったときのフレッシュな気持ちを思い出し、先入観や思い込みではない、ニュートラルな視点で相手に興味と関心を抱くことを目指し、プラスのメッセージがあふれる職場を目指していきたいものです。

ベストセレクション