働き盛りのメンタルヘルス vol.4
ストレスが蓄積してくると生じる「ストレス反応」。この体からの「最近無理していませんか」というメッセージを見過ごす(放っておく)と、どういうことがおきてくるのでしょうか。過剰なストレスがメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすのかについての2回目として、今回は精神疾患、とりわけよく耳にするうつ病を取り上げたいと思います。
精神疾患は休息を求める体のサイン
ストレスに苛まれると生じるストレス反応は、体からの警告であるとお話してきました。このストレス反応を実感するようになっても生活を見直さず、さらにメンタルヘルスが悪化すると、精神疾患の段階に移行しかねません。精神疾患は、専門的には「脳および心の機能的、器質的障害によって引き起こされる病気」と定義されます。端的に言えば体の病気に対するこころの病気である、と言えるでしょう。
ここ数年、精神疾患の1つであるうつ病の名を耳にすることが多くなり、一般的な病気としてかなり認識されるようになりました。厚生労働省が発表した直近の資料は、精神疾患による労災の申請件数が21年度に1000件を超え、過去最多を更新したと伝えています。この資料によると、精神疾患で労災認定を受けた234名のうち、30代が75件ともっとも多く、本連載が着目している30・40代の「働き盛り世代」だとおよそ6割を占めていることが分かります。
精神疾患の代表的な存在として知られるうつ病は、よく「こころの風邪」と表現されます。しかし、体の病気と異なり精神疾患は、分かりにくいものです。風邪であれば発熱や腹痛といった比較的目に見える症状で体調が悪化しても、数日休養していれば、たいてい元気になるでしょう。ところが、明らかにこころの病気で調子を崩した状態になってしまうと、治療にはそれ相応の時間が必要となり、風邪などのように短期間では回復しません。
体に現れるさまざまなストレス反応は、「今のままの状況が続けばこころの病気になりかねませんよ」というサインを、私たちに教えてくれます。それでもなお、その注意を重く受け止めずに、無理をしすぎた私たちに対する体からの強制的な休息願い――それが精神疾患であると考えてみましょう。つまり、精神疾患は、改めて自分自身や人生をゆっくりと見つめなおす機会であるとも捉えられるのです。
うつ病はどんな病気なのか
一口に精神疾患と言っても、いろいろなものがあります。ここでは、とりわけメンタルヘルスの悪化と関係が深い気分障害を取り上げます。気分障害とは、うつ病という名前でよく知られる精神疾患の1つです。うつ病はストレスが発症の主要因と考えられていますが、脳内物質の異常だという考え方もあり、その原因はいまだ明確になっていません。
気分障害は、気分の落ち込みが持続するうつ病(大うつ病)、うつ病の症状と異常な気分の高まりを特徴とするそう病の症状とが交互に現れる躁うつ病(双極性障害)の2つに大別されます。気持ちが落ち込んだ時や嫌な出来事に遭った時の感情を「最近うつっぽいんだよね」などと表現する場合もありますが、落ち込みはうつ病が示す症状の1つに過ぎません。
うつ病について、もう少し詳しくみてみましょう。うつ病は気分の落ち込みを特徴としますが、私たちは日常生活においても気分の落ち込みを経験することがあります。十分な準備で臨んだ重要なプレゼンでの失敗、家族同様のペットとの死別など、気分の落ち込みは、私たちの周囲にある身近な感情です。また、不運な出来事が続いて、気分の落ち込みが続く場合もあるでしょう。
こうした落ち込みはうつ状態と呼ばれ、特段気にする必要はありません。うつ状態とうつ病は似ているように見えますが、その期間に大きな違いがあります。うつ状態は長続きせず、比較的短期間で憂うつさがなくなるのに対して、うつ病は憂うつな気分の落ち込んでいる状態が継続的に生じます。もし、3週間以上憂うつな状態が続いたら、それは体からの「このままじゃ参ってしまう」とのメッセージだと受け止め、できるだけ早く産業医や臨床心理士に相談することが大切です。
ストレスとうまく付き合っていくために
前回から、ストレスの良い点・悪い点についてお話してきました。ストレスが多すぎればストレス反応が生じ、さらには精神疾患になりかねない。その反面、ストレスが少なすぎれば、日々の張り合いがなくつまらない日常になってしまいます。欲張りのように思えますが、ストレスが適度なものとなるように自分のコンディションを整えることができれば、充実した日々が過ごせそうだということが分かってきました。次回は、ストレスを「良い加減」にコントロールするヒントとして、ストレスマネージメントについて解説したいと思います。
※このコラムは「健康保険」2010年7月号に掲載されたものです。