働き盛りのメンタルヘルス vol.3
ストレスなしでは生きていけない私たち。よりよいメンタルヘルスを考えていくためには、ストレスをなくすことを目指すよりも、避けることのできないストレスとのうまい付き合い方を身につけることが鍵となりそうです。ストレスがメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすのかについて、今回次回と2回に分けて詳しくお話します。
こころの声に耳を澄ましてみる
よりよいメンタルヘルスを考えていく上で、ストレスを無視することはできません。この両者の関係は、ストレスが増えるとメンタルヘルスが低下する、悪くなるというような、反比例と似た関係にあります。前回、悪いストレスが過剰にたまってしまうと、メンタルヘルスが悪化しさまざまな問題が生じる、とお話しました。このメンタルヘルスの悪化をきっかけとして生じる心身のあらゆる機能変化を、ストレス反応と言います。
ストレス反応は、「心理的反応」「身体的反応」「行動的反応」の3つに分類されます。ストレス反応が生じる程度までストレスが蓄積してしまった状態はメンタルヘルスが悪化し、こころが健康な状態から、「病気ではないが、健康とはいえない状態」に移行しつつあることを私たちに教えてくれます。つまり、このままの状況が続けば、よりメンタルヘルスが悪化して、うつ病(気分障害)などの「精神疾患」にかかってしまいますよ、という私たちに対する心身からのメッセージなのです。この心身からのメッセージが、心理面では不安感であったり、落ち着きがなくなったりする状態として現れ、身体面では肩こりや不眠など、行動面ではタバコや飲酒量が増えるといった具体的な症状として現れてきます。
ストレスが過剰だとおきる事
ストレス反応が現れた際には、現在の生活や状況を見つめなおす良い機会が訪れたのだと考えてみましょう。たとえば「最近肩こりが気になるな」とか「なかなか寝付けない」などということはよく耳にする話です。これを単に、「最近ちょっと疲れているだけだ」と考えてしまって、気分障害を罹患する状態にまでストレスを溜め込んでしまうようなケースが後をたちません。肩こりを単に肩こりとして捉えるのではなく、「そういえばこのところ、自分に無理させてなかったかな?」と自分自身の日常を振り返り、自分に対していたわりの気持ちを向けてあげる良い機会であると考えてみてはいかがでしょうか。
ストレスが少なければメンタルヘルスは高まるのか?
それでは、ストレスが少なければ少ないほどメンタルヘルスは高まるのでしょうか。じつは、そうとは言い切れないのです。ビジネスの場面を例にとって、考えてみましょう。たとえば、勝負をかけたプレゼンテーション、期待値を込めた営業目標、新規事業の立ち上げなど、働き盛りのビジネスマンには大きなプレッシャーがかかる場面があります。こういった状況は厳しい反面、さらなる自己成長の機会であり、また仕事の醍醐味を味わうことのできる状況であるともいえます。大きなプレッシャーは大きなストレスであると同時に、仕事のやりがいや充実感を生み出す面も持ち合わせているのです。反対に、プレッシャーが負担にしかならないケースもあります。経験が浅く、知識も十分でない新入社員に重要なプレゼンテーションを任せるという業務は、明らかに負担が大きすぎますね。このようなその人物の能力を大きく超えたプレッシャーは、単なるストレスとしかならず、パフォーマンスを著しく低下させることにつながりかねません。
その逆に、働き盛り世代のビジネスマンが、能力を下回る業務しか与えられていない場合はどうでしょうか。こちらは張り合いが感じられないためやる気が起きず、本来のパフォーマンスが発揮できないケースを生じさせます。もちろん、業務がストレスにしか感じられないことは大きな問題ですが、ストレスをほとんど感じないというのも良い状況とは言い切れないのです。
働き盛り世代が、不可避なストレスといかに上手に付き合っていくか、すなわちストレスを過剰に溜めないようにうまい付き合い方を知り、実践していくかが重要なのです。働き盛りのビジネスマンにとっては、負担過剰にならない範囲でストレスをコントロールする方法を身につけることが、公私ともに高いパフォーマンスを常に発揮できる状態を維持するために効果的である、ともいえそうです。また部下の育成を考える上でも、個人の特性を把握し、その能力や状況に合わせた業務負荷を与えることで、部下の能力を最大限に引き出すことができるといえます。ストレスと上手に付き合い、メンタルヘルスを高めていくために必要な方法については次回以降に解説します。
図:ストレスとパフォーマンスの関係
過剰なストレスは精神疾患の引き金に
過剰なストレスに苛まれ続け、心身からの警告であるストレス反応を軽く考えると、こころの病である「精神疾患」になりかねません。次回は、ストレスがメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすのか――の続きとして、精神疾患の代表例であり社会問題化しているうつ病(気分障害)について触れたいと思います。
※このコラムは「健康保険」2010年6月号に掲載されたものです。