ほっとひと息、こころにビタミン vol.84
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
本当の意味での「勝ち組」とは
「勝ち組」「負け組」という言葉を耳にすることがよくあります。ライバル企業や同業企業自身が「勝ち組」「負け組」と言うこともありますし、「勝ち組」の会社に入社できた人とできなかった人を「勝ち組」「負け組」と言うこともあります。
しかし、人生は順風満帆ではありません。戦国武将の毛利元就が『人生には三つの坂あり、上り坂と下り坂、そして〝まさか〟の坂』と言ったように、思いがけないことが起きます。私たちは、そうした思いがけない出来事に対処しながら生きているのです。
誰もが、そうした〝まさか〟の坂のために、苦しい思いをします。そのようなつらい体験をした過去を振り返って、上手に対処できていればもっと「勝ち組」になれたのにと考えて後悔することがあります。そのように考えると、自分の体験に意味がなかったように思えてきます。
それでは、つらさが募るばかりです。そうした苦しい体験を切り抜けてきた自分に目を向けられていないからです。そのような失敗をしても、上手に対処して切り抜けることができたからこそ、今の自分があることを忘れているからです。
自分は「負け組」だと烙印を押してしまうと、上手に切り抜けてきた自分の力を自分で否定することになります。逆に、上手にいかないことがあっても、その状況を切り抜けた自分の力や工夫に目を向けることができれば、その体験をその先に生かして自分らしく生きていくことができます。
本当の意味での人生の「勝ち組」は、結果に左右されないで、そのときどきの体験を生かせている人だと、私は考えています。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。