ほっとひと息、こころにビタミン vol.83
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
快適な生活の中 こころの豊かさとは
まもなく2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催されますが、今ひとつ関心が集まらないと報道されています。1970年の大阪万博の盛り上がりを思い出すとちょっと寂しい気がしますが、生活が豊かになるにつれて、私たちの意識が変わってきたのかもしれません。
大阪万博は歩く歩道など、当時の最先端技術の披露の場でもありました。その時にお披露目された「ワイヤレステレホン」は携帯電話に発展、さらにスマートフォンになって日常生活でなくてはならないものになりました。
そうした最先端の技術が発展して私たちの日々の生活はとても快適になりましたが、その一方で、SNSを使ったいじめやスマホ依存などの問題が出てきています。
最近では、秘匿性の高い通信アプリを使った傷害強盗事件が頻発するようになって、気が休まらない状態が生じています。生活の快適性を手に入れる代わりに、人間としてこころ豊かな生活を送るのが難しくなってきているのかもしれません。
モノや情報に溢れた生活の中で、私たちのこころは知らず知らずのうちに疲れてきているようです。以前、働きすぎてうつ病になった霞ヶ関の高級官僚が、職場の仲間と誘い合って田んぼに行って農作業をしていると教えてくれたのを思い出します。仲間と農作業をしているうちに気持ちがリフレッシュするのだそうです。自然との触れ合い、そして仲間との触れ合いがこころを元気にするのだといいます。
モノに溢れた今の時代、自分が生き生きできるコトを実践することで自分らしさを取り戻すことの大切さを教えられた気がしました。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。