ほっとひと息、こころにビタミン vol.82
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
心身の健康を守るためこころ温まる触れ合いを
年末年始に、家族や友人など、親しい人たちと会って楽しい時間を過ごした人は多いでしょう。こうした人との交流は、私たちのこころやからだを元気にします。
最近、アメリカでラビット・イフェクトという本が話題になりました。日本語だと「ウサギ効果」という意味です。これは、1980年代後半に報告されて注目されるようになった研究成果をまとめた、一般の人たち向けの書籍です。
その研究は、脂肪分の多い食事と心臓疾患との関係を調べるために行われました。脂肪分の多い食事をとると心臓疾患にかかりやすくなることは、今ではよく知られています。しかし、1960年前後にはまだ科学的根拠がはっきりしていませんでした。
そこで、ウサギに脂肪分の多い食事を食べさせて、心臓の健康に好ましくない影響を与えるかどうかを調べる研究がたくさん行われました。その結果、予想通り、脂肪分の多い食事と心臓疾患の発症とが関係していることが分かりました。
ところが、不思議なことに、脂肪分の多い食事をとっても心臓疾患にかからない、健康なウサギの一群が存在していたのです。研究者たちは不思議に思って、その原因を調べる研究を行いました。すると、健康なグループのウサギの研究担当者がウサギを抱き上げたり、なでたり、話しかけたりしていることが分かりました。心理的な安心感が健康を守る働きをしていたのです。
このように安心できる環境は、こころの不調を防ぐ効果があることも分かっています。心身の健康を守るために、今年もこころが温まる人との触れ合いを増やしていっていただきたいと思います。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。