ほっとひと息、こころにビタミン vol.81
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
一人で頑張りすぎず得意な人に任すことも
コロナ禍の時、こころの不調を訴える人が増えました。感染を恐れて他の人との交流を避ける人が多かったからです。孤立は、私たちのこころや体の健康に好ましくない影響を与えます。このような人たちに対して私は、感染に注意しながら人との交流を続けることが大事だと伝えてきました。こころのケアは、自分一人ではできないからです。
コロナ禍が明けたといわれる現在でも、こころを健康に保つために人間的な交流は大切です。例えば、人事異動で昇進した人が新しい部署や業務といった環境変化になかなかなじめず、精神的に追いつめられ、場合によっては休職する人もいます。
昇進といううれしい出来事を体験しながら精神的に不調になるのは矛盾しているように思えます。しかし、昇進したことで仕事が複雑になったり、責任が増えたりします。慣れない仕事に取り組みながら、部下を指導しなくてはならないからです。
昇進したのだからと考えて一人で頑張ろうとしすぎると、気持ちばかりが空回りします。自分の部署の業績が上がらないのが自分の責任のように思えて、自分を追いつめるようになります。こんな時は、上手に助けを求めることが何よりも大切です。
職位とは関係なく、それぞれの人に得意分野があるはずです。ですから、自分一人で頑張りすぎず、職位を超えてその人の得意な分野を生かしてもらうようにします。それによって、人間的なつながりを感じられるようになり、自分だけでなく、一緒に働く人たちのこころも元気になり、仕事の成果も上がってきます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。