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ほっとひと息、こころにビタミン vol.77

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

とらわれから自由になるヒント

仏教用語に「貪瞋痴(とんじんち)」という言葉があると聞きました。欲にとらわれたり、人を羨んだり、迷って愚痴ばかり言っていたりする状態です。こうした煩悩から自由になれると良いと思いますが、そう簡単には振り切れません。それは、こうしたこころの動きが役に立っているからでもあります。

欲があるから頑張れますし、人に負けないように努力することができます。迷いのおかげで、安易に誘惑に乗らないで済むこともあります。煩悩はこころのアクセルとブレーキでもあるのです。

しかし、高齢ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違えて事故を起こすように、こころのコントロールに失敗すると、自分や相手のこころを傷つける可能性があります。そうならないためには、自動車の運転と同じように、こころの余裕を持つことが大事です。

思うように物事が進まないでつらい気持ちが強くなっているときには、ちょっと立ち止まって、自分の考えや行動を振り返る余裕を持つようにしてみてください。自分が考えることで少しでも問題に対処できるようになっていたり、行動して解決につながる可能性があったりする場合には、その考えや行動を続けます。その場合でも、また少し経って役に立っているかどうかを確認します。

もし解決につながりそうにない場合には、身体を動かしたり、楽しめることをしたりして、考えるのをやめます。そのようにして、ひと息入れた後に、もう一度問題に目を向けるようにします。そのとき、どのようになれば満足できる方向に進んでいけるかを考えると、次への一歩を見つけやすくなります。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

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