ほっとひと息、こころにビタミン vol.76
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
配属ガチャに振り回されないために
一昨年、本欄で、生まれた環境によって人生が左右されるというネガティブな意味で使われる「親ガチャ」について書きました。そうしたら最近、希望の職場に配属されなかったことに不満を持った新入社員が「配属ガチャ」という言葉を使っていると聞きました。
配属先に不満を持った新入社員は、せっかく入った会社をすぐに退職してしまい、条件の良い別の会社に再就職するのだそうです。しかも、代行業者に退職届を依頼する若者も少なくないと聞きます。
たしかに、会社のイメージが、入社前に自分が描いていたものと違ったり、仕事の内容が思っていたものと違ったりしたときに、我慢するのが良いとも限りません。でも入社を決める前に、その会社のことは十分調べたはずです。そのように時間をかけて決めた判断を短期間で変えると失敗する可能性が高くなります。
「配属ガチャ」だと不満を感じていると、良くない面ばかりが目に付くようになって、冷静に状況を判断できなくなっている可能性が高いからです。実際に、早々と転職した人の多くが、新しい会社や仕事に満足できず、さらに転職をするということも珍しくないようです。
「配属ガチャ」だと不満を感じたときには、辞めるかどうか結論を出す前に、自分がこれから何をしたいのかを振り返る時間を取るようにしましょう。その上で、信頼できる人に相談して、冷静に判断していくようにします。会社もまた、社員が不満を持ったときに相談しやすい仕組みを作っていくことが望まれます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。