ほっとひと息、こころにビタミン vol.73
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
ものを捨てられない心理
ある会社の上司が、若い社員を連れて外来を受診しました。その若い社員は会社の寮に住んでいたのですが、部屋がゴミ屋敷のように荒れていることに同僚が気付いたために、精神的な問題があるのではないかと心配してのことです。
その社員から話を聞くと、新しい部署に配属になって慣れない仕事に追われているうちに気力がなくなり、部屋を片付けることができなくなってきたと言います。私たちは、元気なときには自然に部屋を片付けたり、不必要なものを捨てたりしていますが、これにはとてもエネルギーが要ります。
はるか昔の原始時代、厳しい現実を生き抜くためには、少しでも使える可能性があるものは捨てないで手元に置いておく必要がありました。ものを捨てるということが、生死に関わる可能性さえあったのです。
そうした考え方は今も私たちのこころの中に同じように残っています。ですから、精神的に疲れているときには、ものをなかなか捨てられなくなります。人間関係で相手を束縛したり、ストーカーまがいの行動を取ったりするようになるのも同じような心理です。
このような執着心が強くなっていることに気付いたときには、自分のこころが疲れていると考えて、冒頭の会社員のように信頼できる人に相談することが役に立ちます。自分の行動を客観的に眺められるようになりますし、自分一人で頑張らなくて済むからです。
もし一人で対応できそうであれば、片付け上手の人のように、たまっているものを並べてみて、どうしても必要なもの以外を捨てるようにすると良いでしょう。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。