ほっとひと息、こころにビタミン vol.57
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
つらい体験、未来に生かす
私たちは、誰もが心のレジリエンスを持っています。レジリエンスというのは、つらい状況でこころが折れそうになっても折れない力、曲がっても元に戻る力です。その力を生かすためには、つらい状況に直面しても、諦めてしまわないことです。
私たちは生きていく中で、いろいろとつらい体験をします。その体験を、その後に生かすことができる力がレジリエンスです。そのためには、後悔と反省、未練について整理しておくと良いでしょう。
後悔は、「あんなことをしなければよかった」と、自分を責める心の動きです。後悔の波に巻き込まれてしまうと、そのつらい体験をした過去に1人取り残されてしまったような孤独感が強くなります。それに、いくら考えたところで、起きてしまったことを変えることはできません。無力感が強くなり、孤独感と相まって、先に進めなくなります。
そのときに大事になるのが、反省です。思うようにいかないことがあったとしても、それで終わりではありません。その体験を次に生かすことができます。後悔は過去へのとらわれですが、反省は未来への光になります。そのときに、未練と呼ばれるこころの動きに目を向けてみると、次に進む手掛かりが見つかることがあります。
未練の中には、全てを諦めきれず、可能性に目を向けたいという前向きの気持ちが含まれているからです。チャンスや可能性を探そうという強さが、そこにはあります。過去を反省しながら、未練の中に含まれているささやかな自分の夢を大事にすることで、失敗が成功へのきっかけになります。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。