ほっとひと息、こころにビタミン vol.55
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
オンラインの長所、短所
コロナ禍が始まった頃のことです。オンラインで米国の医師と話したとき、こんなことができるようになったのだと、お互いに興奮したのを思い出します。それまでは毎年のように行き来していたのですが、コロナ禍でそれができなくなってお互いに寂しい思いをしていました。
それが、オンラインを使うとその場にいるかのように話ができることに驚き、喜びました。ピンチはチャンスといわれますが、コロナ禍というピンチに直面したときにオンラインという新しいコミュニケーションが発達したことに、私たち人間が持つ力を感じたものです。
しかし、その一方で、オンラインの不自由さを感じる場面も出てきました。オンラインは若干の遅れがあるために時間的余裕を持って反応する必要があります。それ以上に問題だと私が感じているのが、オンラインの空気感の無さです。そのために、言葉がそのままの勢いで相手にぶつかってしまうことが少なくありません。
対面の交流では、言葉以外に、その場の雰囲気やお互いの態度など、目に見えない情報がたくさんあってこころの緩衝材の役割を果たしています。これはメールやSNSでも同じで、特に怒りや不満などのネガティブな感情がぶつかりやすくなります。そうした感情が必要以上に強く伝わって人間関係がギクシャクしてくることが少なくありません。
そうしたことを避けるためには、オンラインでいつも以上に大きくうなずいたり、相手を思いやる文章をメールに多く入れたりして、言葉のネガティブな印象を和らげる工夫をすることが大事になります。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。