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ほっとひと息、こころにビタミン vol.53

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

正しく恐れて自分を守る

秋になると、多くの事業所で人間ドックなどの職域健診が行われますが、健診を受けることに不安を感じる人がいます。問題を指摘されるのが心配で自分は「健診を受けない」と言っている先輩医師がいたのを思い出します。冷静に考えれば不思議な話です。そうした問題を早めに発見して対処し、不安のもとをなくすのが健診の目的のはずです。不安だからといって健診を受けないでいると、不安はますます強くなるだけです。

また、検査を受けた後、結果が出て再診や精密検査を受けるようにいわれると不安になります。私も先日大腸内視鏡の検査でポリープが見つかり、摘出して病理検査をしてもらいました。かかりつけ医は「問題ないだろう」と言ってくれていましたが、結果が出るまでは落ち着きませんでした。

検査を受けたり再診をしたりすることで落ち着かない気持ちになったり不安になったりするのは、ごく自然なこころの反応です。検査をして良くない結果が出る可能性は否定できません。ですから、不安になるのです。しかし、検査の後に再検査を勧められる人は多くはありません。再検査の後に「異常なし」と判断される人の割合は9割以上だといわれています。私の場合も、幸いなことに、病理検査では問題がありませんでした。

仮に、再検査で良くない結果が出たとしても、その後に良くないことが起きるというわけではありません。むしろ、逆です。それまで隠れていた病気の存在が分かって、手遅れになる前に対処できるからです。検査や再検査で不安になるのは分かりますが、正しく恐れて自分を守ってほしいと思います。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

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