ほっとひと息、こころにビタミン vol.51
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
無力感を和らげる人とのつながり
ロシアがウクライナに侵攻してから、連日マスコミなどで崩壊した街並みや遺体と思われる映像など、悲惨な光景が報道されています。そのほかにも国内外の暗いニュースを見聞きして、気持ちがふさぎ込むような体験をしている人は少なくないのではないでしょうか。
こうした状況をみていると、東日本大震災の報道に接したときのことを思い出します。私は、テレビを通してですが、あまりにも悲惨な情景を目にして、何もできない自分の無力さを思い知らされる感じがしました。自分が書いている文章にどのような意味があるのか疑問に思えて、メールマガジンを書けなくなったりもしました。
しかし、毎月のように現地に行って被災した人たちと一緒に地域の人たちの心を支える活動をする中で、自分にできることがあるということを感じることができました。厳しい状況の中で生き抜いている人たちと話しながら、人のこころの強さを感じることもできました。私のメールマガジンを楽しみにしているという人の声が届いて、メールマガジンを再開することもできました。
災害や戦争など、抗えない出来事が起こったとき、私たちは何もできないような無力感を体験します。しかし、そうした中でも私たちがそれぞれ生活の中でできることはたくさんあります。中でも、信頼できる人間関係は、「自分には何もできない」という無力感を和らげ、自分なりにできることを見つけていく力になります。暗いニュースが多い今だからこそ、お互いに助け合いながら自分にできることを大切にしてください。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。