ほっとひと息、こころにビタミン vol.40
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
できることに目を向ける
新型コロナウイルス感染症の拡大が始まって1年半が経ちました。この間、自粛生活やマスク着用など、窮屈な生活を強いられて、以前とは違って気持ちが晴れない毎日を送っている人も少なくないと思います。
この窮屈感は、自分のしたいことができないという、ある意味で自分の行動を縛られているという意識から生まれています。そうしたときには、少し気持ちを落ち着けて、自分が今本当にしたいことは何かを考えてみましょう。そしてそれが本当にできないのかを考えてみるのです。
たしかに、今までのように自由に人と会って、酒を酌み交わし、大声で話すことはできません。しかし、必要があれば出かけていって人と会うことはできます。マスクをして静かに話すこともできます。遠くに行くことができないなら、オンラインで話すこともできます。いろいろな可能性があるのです。
新型コロナの感染が拡大して、自粛生活をするようにいわれると、どうしてもできないことに目が向いてしまいます。そのために、不自由な思いをするようになるのです。しかし、その一方で、きちんと感染対策さえすれば、できることもたくさんあります。何も、一人で部屋の中に閉じこもっている必要はないのです。できることに目が向くようになれば、窮屈感は和らいできます。
考えてみれば、新型コロナの感染拡大前も、何でも自由にできたわけではありません。その中で、私たちは、自分にできることをやってきたのです。コロナ禍でも、同じように自分にできることに目を向けるようにすると気持ちが前向きになってきます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。